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濁浪清風
悲しみを秘めた讃嘆(3)
   阿弥陀如来の本願が大悲であるとは、「一切衆生」を救済の対象とするということである。それは、大乗仏教を標榜するからにはある意味で当然なのであるが、その一切衆生の代表者として、自分自身をその救済目的として考察したのが、中国の祖師曇鸞であった。曇鸞は、当時中国の仏教界で流行していた中観学派(「四論」、すなわち龍樹による『中論』・『十二門論』・『智度論』〔伝〕、ならびに提婆の『百論』を中心に学ぶ学派)の学匠であった。しかし彼は、当時次々に流入してきていたインドからの翻訳経典(『大集経』など)に興味をもち、それを読み通したいという願いを貫くために、健康法を兼ねた神仙の法を求めたと伝えられている。

  その当時、菩提流支なる訳経三蔵が中国に来ておられて、曇鸞と対面したとき、その求法の態度を厳しく叱りつけたという。その叱責に深く自己の求道心の劣弱性を自覚した曇鸞は、せっかく努力して獲得してきた神仙の法の巻物をその場で焼き捨てたとされる。この伝承の内容に深く感動したのが、親鸞だったのだと思う。親鸞は、作成した『和讃』や「正信偈」において、伝えられているこの求道心の劣弱性とそれからの立ち直りを、あたかも自己自身における迷悶からの立ち直りであるかのごとくに、共感をもって語ろうとしている。

  たとえば、「正信偈」では、「三蔵流支、浄教を授けしかば、仙経を焚焼して楽邦にきしたまいき」(「三蔵流支授浄教 焚焼仙経帰楽邦」、東本願寺出版『真宗聖典』、206頁)とあるし、『高僧和讃』には、「本師曇鸞和尚は 菩提流支のおしえにて 仙経ながくやきすてて 浄土にふかく帰せしめき」「四論の講説さしおきて 本願他力をときたまい 具縛の凡衆をみちびきて 涅槃のかどにぞいらしめし」とある(以上、同上、491頁)。

   ここに示されているごとく、菩提流支の教えによって、仙経を焚焼したという決断があったことに重ねて、浄土の教えを自己の求道心の目的として受け止める決断をしているということである。中国にはすでに浄土の経典類が翻訳されていたのであるが、それに加えて菩提流支が、天親(世親)の表された『無量寿経優婆提舎願生偈』(以下、『浄土論』と表す)を翻訳している。菩提流支は『入楞伽経』・『十地経論』等も翻訳しているのだが、おそらくは曇鸞に渡した内容とは、『浄土論』だったのではないかと思う。曇鸞は、『浄土論』の註釈、つまり『無量寿経優婆提舎願生偈註』(『浄土論註』)を作成されているからである。(続) (2021年9月)

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