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濁浪清風
 今年(2004年)の正月になってすぐの18日、親しくしていただいていた坂東性純先生(真宗大谷派報恩寺住職・元大谷大学教授)がお亡くなりになった。私たちのセンターの研究会にもたびたびご出講いただき、私個人としてもいろいろとご指導をいただいていて、突然のご逝去の報に、しばし呆然としたことであった。
 坂東先生は、英語がお得意で、ご自分でも英語が大好きだとおっしゃっておられた。鈴木大拙師とは、若いころからのご関係があって、大拙訳の英訳『教行信証』を出版するにあたっては、グロッサリー部分の翻訳をされたとお聞きしている。
 私たちは、親鸞仏教センターの研究内容のひとつの中核として、この大拙訳『教行信証』を取り上げている。それは、親鸞聖人の信念内容を、外国人に伝えるために英語に訳してあるものを学ぶことで、漢文に表現された親鸞聖人の思想・信念を、現代から新しい切り口で解明することにもなるのではないか、と思ってのことである。
 坂東先生は大拙師の英語について、若い時代にアメリカに十年あまり滞在したうえに、アメリカ人の女性と結婚され、夫婦の日常の会話は英語であったということ。そして大拙先生が翻訳したものに、ビアトリス夫人が目を通されて、生きた英語にするための対話をしておられたということ。そしてなによりも、大拙師が仏教について深い了解と広い知見をお持ちであったこと。加えて、大拙師は浄土真宗についても独自の視野から高い評価をしてくださっていたこと、などを挙げられて、『教行信証』を英訳するについて、大拙師に依嘱した真宗大谷派(東本願寺)の選択を、間違いのない正鵠(せいこく)を得た人選であったと言われていた。
 坂東先生は、財団法人仏教伝道協会の仏典英訳事業の中心メンバーでもあられ、仏教を自己の信念としつつ、西欧の思想信仰の世界と対話できることを深く願っておられた。その点からも、坂東先生のご生存中に大拙訳『教行信証』が、手に取りやすい形で、国内の一般出版社か、あるいは外国の出版社から世に出されないものかと切望していたのであったが、残念ながらそういうことにはならなかった。
 現在の世界状況の中で、日本が果たすべき責任がさまざまな視点から厳しく要請されてきている。近代日本として不幸な経過をもった私たち日本人が、世界に本当の意味で果たすべき仕事は、大拙師が太平洋戦争のころにすでに見抜かれていたように、人間解放の原理としての仏教の信念を、大切な宝として秘蔵するのでなく、西洋の文化の中に公開していくことであろう。なかでも親鸞聖人の思想・信念は、未だほとんど紹介されておらず、西欧の文化に影響というほどのものを与えていない。だからこそ、まずさしあたって大拙訳『教行信証』の出版を、一日も早く、何とかできないものかと念ぜずにはいられないのである。(2004年3月)
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