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濁浪清風
親鸞教学の現代的課題(1)

 このたび、当親鸞仏教センターでは、鈴木大拙『英訳 教行信証』をオックスフォード大学出版局USAから新訂版として出版した。この訳は50年前の親鸞聖人700回御遠忌の記念に真宗大谷派が鈴木大拙師に依頼して、大拙師によってなされた翻訳である。大拙師はご高齢にもかかわらず、この仕事に没頭されて、91歳で1961年4月にドラフトを作り上げて、東本願寺に提出してくださった。そして大拙師は、そのドラフトを5年後にご自身が急逝されるまで、入念に手直しをし続けられた。
  この手直しされた英訳は、1973年の親鸞聖人御生誕800年・立教開宗750年の記念として、真宗大谷派の出版部から出版された。その折には、英訳『教行信証』一冊の他に、真宗関係の英訳をまとめて一冊としたものと合わせ、二冊をパッケージにしての出版であった。それに対して、今回は英訳『教行信証』のみを一冊として出版した。なおこの出版にあたり、『教行信証』を初めて読む欧米圏の人々のために、大拙師自らが書き下ろされていた「イントロダクション」をこれに加え、グロッサリーを使用しやすいかたちに全面的に作り替えた。
  大拙師のイントロダクションには、親鸞の思想の背景にある『無量寿経』の経説が、法蔵菩薩の物語であり、これが仏道においていかなる意味をもっているのかについて、大拙師の了解が簡潔に述べられている。このイントロダクションを通過して『教行信証』に読み進むことで、英語圏の読者には、親鸞の思想的な苦労の意味に近づきやすくなっているということなのである。
  英語に訳された中国・日本の思想書は、現在の知識人にとって、比較的関心をもって取り組みやすくなっている。現代日本の知識階級の教養には、欧米の原文や翻訳書を通した思想が浸透してきているということなのであろう。このことから、英訳された『教行信証』(全6巻のうち、回向の巻である教・行・信・証の四巻のみの翻訳ではあるが)の学びを通して、現代に生きる思想信念、仏教の教えとはどういうものであるのかが、考察されても良いのではなかろうか。
  このことは、西欧の文化や歴史を貫いているキリスト教的な発想や善悪観との対話的な検討なども含めて、仏教が問題にしてきた課題の再吟味が要求されるのかもしれない。親鸞が問題提起したさまざまな課題が、現代にとって意義あるものなのかどうなのか、また現在、問題視されているものが人類史を貫くほどの問題なのか否か。ともかく現代において親鸞の思想を再検討することは、ぜひとも必要ではあるが、大変困難な課題であることは間違いないと言えよう。(2013年4月)

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