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濁浪清風
場について(8)
 願心荘厳(がんしんしょうごん)の場がわれらに呼びかけるのだということを、親鸞は『教行信証』「信巻」の「欲生心」の註釈に表している(『真宗聖典』232〜235頁、東本願寺出版部)。このことを言うためには、すこしこのことについて丁寧に語る必要があるかもしれない。無限なる如来の大悲が、無限であることを自己限定して、有限のかたちである言葉のなかに自己の名として現れた。これを選択(せんじゃく)の本願の名号という。さらに、無限のはたらきを衆生に恵むために、あたかも有限の場所のごとくに「浄土」を建立し、そこに所属する功徳を限定して語りかけている。それを願心荘厳という。『無量寿経』の物語をこういうように解釈する伝承が、天親(てんじん)・曇鸞(どんらん)を経て親鸞に来たっている。
 そして、その場所を「要求せよ」という呼びかけを、本願では「欲生我国(よくしょうがこく)」という。その欲生我国の「欲生」を親鸞は、「如来招喚(しょうかん)の勅命」であるという。如来の国への意欲が、如来の「勅命」なのだと。それを善導は、「帰去来(ききょらい)」の慕情になぞらえて、「故郷」の呼び声であるという。人間存在の根底に、異郷にさすらう旅人が熱烈に身を焦がすほどの要求として感ずる、「望郷」のごとき志願を与えられているのだと。それを「欲生我国」という。そして、それを「回向(えこう)」のこころなのだという。如来が衆生に呼びかけ続ける根源からの欲求こそが、真に衆生に与えられている救済への大悲のこころの表現なのだと。
 その場所を代表する荘厳が「不虚作住持(ふこさじゅうじ)功徳」である。偈文(げもん)では「観仏本願力(かんぶつほんがんりき) 遇無空過者(ぐうむくかしゃ) 能令速満足(のうりょうそくまんぞく) 功徳大宝海(くどくだいほうかい)」(『浄土論』〈『真宗聖典』137頁〉)という。仏の功徳とは、その本願力をこころに浮かべ見るなら、もう空(むな)しく過ぎるということがなくなる、そして功徳の大宝が凡夫の身に満ち満つるのだ、と親鸞は註釈している。仏の場所の功徳が、それを念ずる衆生に来たって、心身に満足成就の感動を与えるのだというのである。
 そして、その功徳を総合して把握するがごとくに所持するものが、名号となった願心の意図だというのである。名号が「功徳の大宝海」だという。場所全体が名に総合されて、われらの信心の内に帰去来の意欲を恵みつつあるというのである。名となって衆生の故郷というべき場所を、異郷に生きる実存の根源に与えようというのである(2006年7月)。
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