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キーワード:労働、独立、家事
Vol.166 独り立つ「人」 親鸞仏教センター嘱託研究員 法隆誠幸
 

 いつからなのだろう、何ごとも効率よく合理的にという価値観が社会を席巻(けん)するようになったのは。いまは人の生き死に及ぶまでも、その流れに飲み込まれようとしている。確かに現代は、以前よりもずっと短時間により多くのことをこなせるようになった。その反面、とかくすべてのことが慌ただしく、ことに、都市的な生活との距離が近くなるほど、人はいつも何かに追い立てられているように、せかせかし、イライラして生きている。そればかりか、他人に対しては冷淡で、人は自分の関心事だけを追求するようになった、とも言われる。注意深く眺めると、人と人とが分断されていく仕組みが社会のあらゆるところに配され、それを巧みに利用しながら経済が回っていることに気づく。しかし人は、その「人」という字の成り立ちの意味においても、不安定な状態にあると不機嫌になるようだ。

 誰のものでもない、私の人生なのだから、それをより充実させ満足させるためには、他のことなど構ってはいられない。面倒なものは切り捨てて、一度きりの人生を、動けるうちに、最大限に楽しまなければいけない。それが私の、人生の目的である。最近は、そういう価値観が世代を問わず強くなっているようにも見受けられる。

 思うに、「生きる」ことは働くということである。古来より人びとは、生きるために、日常の時間の大部分を労働につぎ込んできた。それは、けして外に出て働くことを意味するものではない。だから、定年退職などという概念はそこには存在しないし、逆から言えば、何気ない日常のなかで行われているすべてのことが、じつは労働であり、そのことに支払われる対価など本来なかったはずなのである。その最たるものが家事ではなかろうか。家事は、「家の事」と書く。それゆえその内容は多岐にわたり、それらの行為自体は基本的には老若男女の差もないものである。すなわち、自分が住む空間を掃除し、自分の使ったトイレをきれいにすること。あるいは庭の草をむしり、アイロンをかけること。そして人生において培った何かを、人間としての営み、人類の歴史を次の世代に伝えるということ。そういうことをも含む日常のすべてが「生きる」こと、つまり人間としての本来の労働なのである。しかしこのような、いわゆる「家の事」を労働とみなさず、金になることだけを労働とみなしてきた、もっと端的に言えば、いかにお金を儲(もう)けるかということばかりに腐心してきたことに、現代の、心さえも慌ただしくなった大きな要因があると私は思う。

 人は独りで生まれ、独り死んでいく。しかし、そこには家族や仲間と集い、何より生活していくということがある。ときおり「独立した人」という言葉を耳にするが、その真意は自分が住む空間を掃除し、自分の使ったトイレをきれいにすることを含め、「独り立つ『人』」になるということではなかったか。何ごとも効率よく合理的にという、単純な価値観にのみ動かされて生きがちな私たち一人ひとりが、もう少し丁寧に自分自身の人生を「生きる」ことを考える。それができて初めて、人びとの価値観は多様化し、労働の本当の意味もわかるのではないだろうか。労働とは、人間としての精神性を育み、また回復させる行為でもある。そして、そのことに思いが至るならば、そのことがもつ意味はあまりに大きい。なぜなら、ホワイトカラーの人びとで占拠される富が、いかに虚構のものであるのかを知ることでもあるからだ。

 人は独りでは生きてはいけない。しかし、一人ひとりが真の意味で独立者として生きること。そこに人生の深さと豊かさが与えられる。そのように私は感じている。

法隆 誠幸(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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