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keyword:信頼の喪失/科学と宗教/凡夫
Vol.101 危機に陥った「信頼」 常塚聴 

 2011年3月11日に起こった東日本大震災の後、友人と話すなかで、「おそらく今後、ニセ科学や似非(えせ)医療が横行するだろう」という話題が持ち上がった。危惧(きぐ)は間もなく現実のものとなり、わが家の近くの薬局には「放射性セシウムを除去する」と称する浄水器が現われ、インターネットのメールボックスには、「〈放射能〉を防ぐ健康法」を教えるという広告メールが日に何通となく届くというありさまとなった。
 ところが、震災からおよそ半年がたった現在、想定していなかった「信頼の喪失」と呼ばれる事態が起こっている。特に、原子力発電所の事故の初期において、「ただちには健康に影響はない」「基準値を上回っているが、健康に影響を与える値ではない」などといった曖昧(あいまい)な言葉が、十分な解説を加えられないまま公的機関やマスコミを通じて流された。このことによって、「信頼できる情報を発信している」という感覚が失われてしまった。うその情報が蔓延(まんえん)しているという以前に、どの情報が正しく、どの情報がうそであるかを判断するための基準となる「信頼」が失われてしまったのだ。
 公的機関やマスコミに対する「信頼の喪失」は、単にこれらの情報源の発する情報が、その他の情報源による情報と同等の批判や検証を受けるようになった、ということを意味していない。公的機関やマスコミの「信頼」だけでなく、専門家がとなえる科学や人間の理性そのものへの「信頼」が揺らいでいる。そのため、公的機関やマスコミなどで流布する科学的な判断とは正反対の情報が「口コミ」レベルではかえって信頼されるという事態を招いている。その結果、さまざまな情報がさまざまなレベルで錯綜(さくそう)し、どのような行動をとるのが正しいのかがわからない、という状態に、震災以降多くの人々が取り残されている。
 原子力発電所の事故が、科学技術によってあらゆることを自分の思うままに操作できるという人間の傲慢(ごうまん)を打ち砕いた、というのはある意味で正しい。科学は不確かで、取り扱いを誤れば危険でもある。しかし、科学そのもの、人間の理性そのものを否定してしまっては現在の事態を解決することはできない。科学技術は破局的な災害を招きかねないものであるという事実を認識したうえで、どのようにして人間の理性と良心が科学技術文明をコントロールしていくべきであるのかを今後模索していく必要があるだろう。
 人間はどこまでいっても「凡夫」であり、不完全であり愚かなものである、というのが仏教の基本的な人間理解である。「凡夫」だから理性は必要ないというのでなく、むしろ不確かで危険を冒しかねない「凡夫」であるからこそ、理性と良心をもって世界にかかわっていかねばならない、という価値観を構築していくことが、核時代における仏教に求められていることなのではないだろうか。

常塚聴(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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