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keyword:震災、新年
Vol.104 「なかったこと」にできないこと 春近敬

 日本は地震国であり、有史以来地震の発生を示す史料には枚挙にいとまがない。そのなかでも、東日本大震災から一年が経とうとするなかで気にかかっているのは、元暦(げんりゃく)2年(1185年)の大地震に関する各種の記録である。この地震は琵琶湖西岸を震源としたもので、記録に残っているだけでも、今の京都府と滋賀県を中心に近畿地方一帯に大規模な被害を引き起こした。比叡山をはじめとする各地の建造物は破壊され、琵琶湖は「傾きて陸地(くがち)をひたせり」(『方丈記』)、つまり湖南から湖北に向かって津波が発生したといわれている。
 『源平盛衰記』には「貴賤(きせん)上下高らかに阿弥陀仏を申ければ、所々の声々夥(おびただ)し」とあり、人々が現状を嘆き悲しんで、身分を問わず阿弥陀仏の名をとなえる声が起こったという。また、この年の2月には壇ノ浦の戦いで平氏が滅んでおり、人々はそのたたりだと信じた。慈円(じえん)は『愚管抄(ぐかんしょう)』で、この地震は亡き平清盛が龍となって暴れたのだと世間では言われている、と記している。
 注目すべきは、『方丈記』に見られる記述である。「すなはちは、人皆あぢきなき事を述べて、いささか心の濁りもうすらぐと見えしかど、月日かさなり、年経(としへ)にし後は、ことばにかけて云ひ出づる人だになし」。地震があってしばらくの間は、人々は物事の無常さを言葉にして煩悩も少しは薄らぐかのように見えたが、年月が過ぎてしまえば、そのような神妙な心持ちになるどころか、地震のこと自体を口にする人がいなくなってしまった。鴨長明はそのように述懐しているのである。
 ひるがえって、この数ヶ月を振り返ってみると、震災に関する報道は明らかに減少してきている。そして、震災を通じて私たちのあり方を見直そうとする試みも確かに起こってきているが、一方で震災によって浮き彫りになったさまざまな課題を、再び不問に付すような動きもまた大きい。眼前の情況に対して見て見ぬ振りをしてでも、震災による問題提起を「なかったこと」にしてしまいたいという思いがはたらくのは、その問題の深さをいっそう明らかにしていると言える。
 蓮如は、新年の挨拶に来た門弟(もんてい)の道徳に「道徳はいくつになるぞ。道徳、念仏もうさるべし。」(『蓮如上人御一代記聞書(れんにょしょうにんごいちだいきききがき)』)と諭した。このときの蓮如は79歳、道徳は74歳である。長年にわたって蓮如を慕い念仏の生活を続けてきたであろう道徳に、正月の場であらためてそのような言葉をかけたことは、私たちがいかに年月や経験を重ねようとも自分本位の考えから離れがたいことを表しているのではないだろうか。一時は自らのあり方を省みて思いを致すことがあっても、時が過ぎれば気持ちを切り替えて元に戻ってしまうのである。
 新年によせて「気持ちを新たにして」というのは、一つの決まり文句である。忘れてしまいたいこと、「なかったこと」にしてしまいたいことは誰にとっても数限りなくあり、2011年はそれがいつもよりも少し多い年だったのかもしれない。それでも、私たちひとりひとりがこれまで引き受けてきた課題までも、自らの都合のいいように書き換えて一新してしまわぬように歩みを進めたい。新たな年を迎えるにあたって、そのように考えているのである。

春近 敬(親鸞仏教センター研究員)

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