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Vol.11  人には誰にでも口癖がある。通常は自分の口癖には気づかない。私もいつもは他人に指摘されて初めて知るのだが、数年前に一度だけ自分で気づいた口癖がある。それは「帰りたい」だった。
 もちろん、下宿先でもなく、実家でもない。特定の何処(どこ)かとして、帰り先を思っていたわけでもない。しかし、自分で気づくほどだから、よほど口に出していたのだろう。他人から指摘されなかったのは、独り言のようにして口から出ていたからにちがいない。このような言葉を発するなんてどうかしているな、と思っていたら同じことを口に出していた人がいたことを知った。あの太宰治が「帰りたい」と登場人物に語らせていたのである。「覚醒(かくせい)しかけて、一ばんさきに呟(つぶや)いたうわごとは、うちへ帰る、という言葉だったそうです。うちとは、どこの事をさして言ったのか、当の自分にもよくわかりませんが、とにかくそう言って、ひどく泣いたそうです」(『人間失格』)
 時世も時世だから、前向きであることが常に求められている。「ポジティブ」はここ数年の隠れた流行語だろう。もちろんそれに異を唱えるつもりはないが、前ばかり向いていられるわけではない。調子の悪いときがくれば落ち込みもするし、溜息(ためいき)の一つも出る。そのようなときにふと立ち止まって考えてしまうことがある。「さて、私はどこから来たのだろう」と。これは次の言葉と同義だ。「さて、私はどこに帰ればいいのだろう」。
 人が安心して歩むには、帰る場所が必要な気がする。帰るべき場所があることにより、前を向けるのだと思う。それは特定の場所や人でもいいし、もっと精神的なものでもいい。帰ることは決して消極的なことではなくて、進むために、つまり生きるためには不可欠なことなのである。
 仏教について考えてみると、案外、「帰る」という字が重要な意味で用いられている。「帰命(きみょう)」、「帰去来(いざいなん)、他郷には停(とど)まるべからず」など、いずれも印象深い言葉だ。仏教にも「命が帰る場所」を教えるのかと思うと、少しだけ親近感がわいてくる。仏教が現代に発するメッセージがあるとすれば、「帰る」ということも、その一つだろう。
 ちなみに、現在の私は冒頭の口癖は出ていない。それが、なぜなのかはわからないのだが。

田村晃徳(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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