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keyword:怒り、正義感、インターネット
Vol.113 「消費」される感情 春近敬

 昨年(2011年)の10月に、滋賀県大津市の当時中学2年生が自死する事件が起こった。それが今年(2012年)の6月ごろから「いじめ」問題として、メディアで取り上げられるようになり、学校や県の対応も問われる事態となったことから、この事件に対する報道が一気に過熱した。昨今は、こういう悲惨な事件が起こると、インターネットで「犯人捜し」が行われる傾向がある。たちまち「いじめた側」と目される生徒とその家族、教師や県の担当者らの名前と写真が暴かれ、インターネット上にさらされることになった。彼らの家や職場には、罵声や脅迫が殺到したという。
 これまでの報道内容がもしすべて本当だと仮定するならば、この自死につながったいじめと、その後の周囲の対応は実に深い問題をはらむもので、私自身、憤りを禁じえないのである。多くの人が「犯人」を罵倒する行為は、おそらくは、この事件を許せないと思う義憤と正義感に駆られて行われているのであり、プライバシーが暴かれて見ず知らずの人たちから罵倒されるのは「自業自得」だという意見もあるのかもしれない。
 ここで思い出されるのは、今年の4月に起こった事件である。京都府亀岡市で、無免許運転の少年たちが運転した自動車が歩いていた小学生たちの列に突っ込み、多くの人の命が失われる事故が起こった。このときも「義憤」から犯人捜しが行われたのであるが、インターネット上に晒された名前は合計で6人だった。しかし、自動車に乗っていた少年は3人である。つまり、このうち少なくとも3人、多ければ6人のまったく無関係な人が、ある日突然「犯人」に仕立てられていわれなき非難を受けたのである。
 当事者ではない人間が、インターネットの情報だけで犯人捜しをするのだから、どうしても確実なところはわからず、憶測や推測が入り交じる。その結果、このようなことが起こる。今回の大津の問題でも、事件と無関係の人が「いじめた側」とされる生徒の家族と「誤認」される事態が発生している。
 そして、大津の事件が明るみになったころから、亀岡の事故について感情をあらわにして話す人を急速に見かけなくなった。実際の被害者も、加害者も、巻き添えに晒された無関係の人も、何ら顧みられることなく忘れ去られていく。本当に悲劇を二度と繰り返したくないと願うのであれば、小学生の通学のあり方や道路の現状、そして無免許運転と少年犯罪の実態について思いをはせて、これからどうすれば良いのかという議論に向かうのが筋である。もちろん「誤認」など論外であるし、仮に疑いなく加害者であったとしても、そのような私刑的行為がそもそも許されるのかという本質的な問題がある。しかし、多くの人は一時的に怒りの感情を爆発させただけで、そのような話にはなっていない。
 昨年12月、当センターの講演会にご出講いただいた中島岳志氏(北海道大学公共政策大学院准教授)にお会いしてお話を伺ったとき、氏が調査と取材を続けている2008年発生した「秋葉原通り魔事件」について、次のようなことを話されていたのが印象的であった。曰く、「事件直後は皆があれだけ口泡飛ばして声を上げていたのに、今やあの衝撃的な事件について有識者も街の人々も、誰も語ろうとしない。まるでサッカーのワールドカップや、オリンピックを見るかのように一時的に強い感情をあらわにして発散させて、それで満足してしまう。」
 中島氏の指摘が正しいならば、このままでは大津の事件も早晩忘れ去られ、その事件を引き起こした構造的な問題などは等閑に付されてしまうのではないか。
 私たちは、義憤や正義感というものを隠れみのにして、実のところはお祭り騒ぎのように感情を「消費」する行為に終始しているのではないだろうか。悲劇的で、強い感情を引き起こすような事件や事故が起こるたびに、そのように思うのである。

春近 敬(親鸞仏教センター研究員)

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