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Vol.131 言葉の再生 内記洸(親鸞仏教センター研究員)

 言葉が語れない、という経験をしたことはあるだろうか。
 当親鸞仏教センターが「研究機関」であり、その業務が大きくは「研究活動」である以上、どうしても「言葉」とは直接的に関わらざるをえない。ただ、研究であるからと言って学問的に高度な専門性を目指しているのかというと、そうではない。なぜなら、研究にせよ何にせよ、それが「親鸞」や「仏教」を主題にしたものである限り、そもそも「『親鸞』や『仏教』である」というところから始めなければならないからだ。一般に「宗教」や「仏教」というと何か特別で崇高な印象がつきまとうが、それはまったく違う。「私たちが今ここに生きている」という当たり前のこと、誰にでも例外なく当てはまるような普遍的なことがらについての問いから宗教は始まるのであって、そこで語られる言葉も当然、私たちの日々の生活のいちいちを離れてはあり得ない。けれど、「この私たち自身」が求められるような言葉というのは不思議なもので、それを望めば望むほど、「この私」から言葉は確実に離れていってしまう。
 振り返って、私たちが日々触れている言葉についてはどうだろうか。ここ、東京では特に、どこを見ても言葉、言葉、言葉である。そのジャンルを問わず、ほとんどの言葉が刹那(せつな)的で、そのときどきはやかましく騒ぎ立てるものの、結局は沫(あわ)のようにはじけてそのまま虚空に消えていってしまう。政治家などのやり取りを見ていても例外ではない。そこには相手を丸め込むための高度な論理と巧みな弁論術があるだけで、言葉はそのためのただの道具である。そこには勝ち負けや優劣の関係があるだけで、こちらの心を震わせたり内面に深く切り込んできたりする重さや鋭さ、「その人自身」を感じさせるような「質感」がない。ただ言葉を振り回し、その言葉に振り回されるだけである。私たちは、実は、言葉に酔っているのではないか。
 そんな空虚な言葉など捨ててしまえばいい。言葉が“真実”との関わりにとって邪魔なのなら、そんな言葉などなくていい。そう言ってしまえれば楽なのかもしれないが、しかし私たちは、「言葉」なしに生きることができない。「人はパンのみにて生くるにあらず」。人は「意味」によって支えられ、「意味」において初めて生きることができるのであって、その「意味」とは多く「言葉」に依っている。合理性に特化した現代を生きる私たちは、自分たちが言葉を使っているのだとはき違えているが、逆である。言葉が語られることによって初めて、私たちは“私たちとして”存在することができているのであって、この意味で言葉とは私たちの存在そのものである。こんなことを覚えている人はいないだろうが、私たちは例外なく、「おぎゃあ」と(もしくは類似の音声で)叫んで生まれてきた。言葉が意味を紡ぐ以前から、私たちは言葉と共に生まれ、歩んできた。言葉との関係のぎこちなさの理由はこちら側にあるのであって、空虚になってしまったのは言葉ではなく、むしろそれを語る私たち自身ではないか。

  正しいことを言うときは  少しひかえめにするほうがいい
  正しいことを言うときは  相手を傷つけやすいものだと
  気づいているほうがいい
  立派でありたいとか  正しくありたいとかいう
  無理な緊張には  色目を使わず
  ゆったり ゆたかに  光を浴びているほうがいい

(吉野弘「祝婚歌」より抜粋)  


 私は幼い頃、父から繰り返し、「そんなに言葉を難しくせんでいい」と言われたものだった。しかし、正しいことや立派なことに色目を使いたいのが私たちであり、「ゆったり ゆたかに」生きること、ありのままの言葉を紡ぐことはとても難しい。せいぜい、言葉を恐れて語れなくなってしまうのが関の山だ。しかし、少し耳を澄ませてみれば、生まれたころそうだったように、むしろ言葉のほうから、私たちの存在を求め証しようとする“声”が響いてきているのではないか。
 今、私の目の前には、“初めの言葉”を口にし始めたばかりの赤ん坊がいる。存在の輪郭を露(あら)わにし始めたばかりのその無垢な存在/言葉は、小難しい言葉で語ってばかりいる小難しい私に対して、「恐れずに語れ、語れ」と言ってくる。遠慮などまるでなく。それはまるで、「ゆっくり ゆたかに」、言葉が言葉自身を生み出そうとしているかのようだ。

元親鸞仏教センター研究員 内記洸

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