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Vol.140 風景 親鸞仏教センター嘱託研究員 田村 晃徳

 お寺にお参りに来た人が、よく口にする言葉がある。それは「やぁ、小さいころと変わらないなぁ」だ。幼いころ境内(けいだい)で遊んだ、懐かしい体験を思い出すのであろう。正直な話をすると、実際は変わっている。庫裏(くり)は改築したし樹木の種類も変わった。庭にあるブランコの色も、滑り台の場所も変わっている。でも、それは些細(ささい)なことだ。境内に足を踏み入れ、そこには本堂がある。それで十分なのだ。記憶は嘘をつく。でも、そのような嘘なら罪はない。
 幼いころは、広く、大きく見えたお寺が、大人になると小さく感じる。そこに自分の成長と若干の寂しさを感じる人もいるだろう。身体も精神も成長し、成熟した自分。いつの間にか大人になっていた自分。それなりに一生懸命やってきて、今に満足している。それでもある場所に来ると過去の記憶がよみがえり、あのころは良かったなと郷愁に浸る。大切な時間だ。お寺がここにある大切な理由は、その時間の提供にあるだろう。「過去は振り返らない」と言うのはいさましく見える。でも、それは結局自分の歴史を正しく見ないことでもある。人は今を生きる。でも、それはこれまでの時間が作ってくれた今である。一つの風景が一人の人生を振り返らせる。風景が人に与える影響は、存外、大きいのだろう。
 そのような何十年前の風景を覚えている一方、おもしろいのは今の景色を忘れていることである。町を通ると開発があり、建物が壊され空き地となっている。日常、よく歩く道である。しかし、そこに何が建っていたのか覚えていない経験のある人も多いだろう。それは上記の境内と同じ意味での風景だろうか。
 地方に行くと街並みが同じであることに気づく。幹線道路を車で通れば、県は違っても、見える看板は地元にあるものばかりである。大型ショッピングセンターを中心にその町の便利さが語られ、世界規模のコーヒーチェーンが何店あるかが、その町の都会度を示す。地元と同じお店を見て、知らない街でも安心している自分もいる。でもその店は、ある人が大人になったとき、まだそこにあるだろうか。記憶を呼び起こすような場所を、私たちは今、いくつもっているだろう。どれだけ、子どもたちに与えているのだろう。町は確かにきれいになり、整備され快適だ。でも、清潔すぎると人はかえって弱くなるように、快適すぎる町は、人の記憶への影響も弱いだろう。お寺のように、そこにしかない、変わらぬ風景を私たちは求めているのではないだろうか。
 長田弘さんの本におもしろい記述があった。昔の歌にあり、今の歌にないもの。それは「風景」だそうだ。風景が消えて、心象描写ばかりとなってしまったらしいのである。「歌は世につれ 世は歌につれ」が本当ならば、風景の伴わない現代人の精神には、何かが欠けているとは言えないだろうか。

田村 晃徳(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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