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Vol.142 ソクラテスがやって来た 親鸞仏教センター嘱託研究員 越部  良一
 ソクラテスの格好の餌食となったのがどんな人間であったのか、そしてまた、ソクラテスがどんな魂を愛したかを、クセノフォンの『ソクラテスの思い出』のなかの挿話に見ることができる(以下、引用は『ソークラテースの思い出』佐々木理訳、岩波文庫)。
 「有名な詩人や学者の書物をたくさん収集して、そのために早くも自分が同年配の者にぬきんでた智慧者と考え、演説ならびに実行の技能においてあらゆる人間に立ちまさるという、大変な信念を抱いている」エウテュデーモス(まだ十八歳に満たぬ若者だった)のところへソクラテスがやって来て、例のごとく問答が始まる。正義と不正について、その一覧表を作ろうと。エウテュデーモスは言う、敵に嘘をついてもよいが「友人に対しては徹頭徹尾正直でなくてはならぬ」ということに賛同すると。そこでソクラテスは言う。

「将軍が軍隊の士気が沮喪(そそう)しているのを見て、援軍が近づいて来たぞと偽りを言い、この偽りによって全軍の士気の沮喪を喰い止めたとしたならば、この欺瞞(ぎまん)はどっちの方へつけようか。」
「正義の方だと思います。」
「また誰か息子が薬を飲む必要があるのにいやがって飲まないとき、食べものだよと言って薬を飲ませ、この偽りを用いて健康にかえしたとしたら、この欺瞞はまたどちらへつけるべきであろうか。」
「これも同じ欄だと思います。」
「では。友達が憂鬱(ゆううつ)に陥っているので、自殺をおそれ、刀とかなんとかいったものを盗んだり奪ったりしてしまうとしたら、これはまたどちらへつけるべきであろうか。」
「それももとより正義の方です。」
「すると、友人に対しても一から十まで正直にしてはならないと、君は言うのだね。」
「本当だ、そうしてはなりません。私は先刻言ったことを取り消します、取り消してもいいのでしたら。」
「もちろんいいのだ。…間違った表を作るよりはその方がはるかによい。」

 話は善とは何か、悪とは何かになり、エウテュデーモスが善として持ち出した「健康」、「智」、「幸福」、どれも否定されてしまい、最後に金持ちと貧乏人とはいかなる人をそう呼ぶのかの話になる。


「必要なものにも金が足りなくて払えない人々を貧乏人、足りる以上に有る人々を 金持というのだと思います。」
「では、こういうことは気がついているかね。ある人々はごく僅かしかないのにそれで充分足りるのみか、その中から貯蓄までするのに、ある人々はすこぶるたくさんあるにもかかわらず、なお不足しているのを。」
「本当にそうだ」とエウテュデーモスは言った、「思い出させていただいてよかった。…私の愚かさを証拠立てるものです。…これではいまになんにも知らぬことになってしまいましょう。」

 何度読んでも可笑(おか)しく、笑ってしまう。もちろんエウテュデーモスのことだ。無垢の子どものごとくに、物事の不可思議さそのもの、人生の謎の大きさに魅せられて、周りの人の目や思惑など眼中に入らない。こうした柔軟(にゅうなん)な心はいくら称賛しても称賛しすぎるということはない。ソクラテスにとってもそうであったに違いない。クセノフォンは書いている、ソクラテスに「こうした目に逢わされた人々は、大抵は二度と彼に近寄らなかった」のに、エウテュデーモスは違ったと。弟子になったエウテュデーモスとソクラテスの対話がこのすぐあとに記されている。


「言ってごらん、エウテュデーモス、君はいままでに、神々がどれほど心を用いて人間の必要とするものをととのえてくださってあるか、考えて見ようと思ったことがあるかね」
「さあ、そうしたことは、思ったことがありませんでした。」

 君はまるで神々からの贈物だ、そうソクラテスは言いたいかのようだ。

越部 良一(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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