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仕事、清沢満之、西田幾多郎
Vol.156 自分でなければならない仕事 親鸞仏教センター研究員 名和 達宣
 

 三年という期限でつとめてきた東京での仕事が、間もなく終わろうとしている。

 今さらながら、まさか自分が東京の地で仕事をすることになるとは思いもしなかった。兵庫県の寺に生まれ育ち、大阪と京都の大学に進んだ後、最初の仕事も京都で就いた。つまり、これまでの人生はずっと関西圏内にとどまっており、これからもきっとそうだろうと思い込んでいた。

 いざ東京へ上る際、強く意識したのは、清沢満之と西田幾多郎という二人の人物のことであった。

 前者の清沢は、愛知県の自坊で療養生活を送っていたところから、本山の命を受け、晩年の三年余りを東京の地で過ごした。東京へ移転する真宗大学(現・大谷大学)の学監(今で言う学長職)に就くとともに、彼の周りには煩悶(はんもん)青年が集い、浩々洞(こうこうどう)という名の私塾が結ばれた。やがてその場所を中心に展開された信仰運動が「精神主義」と呼ばれることになるのだが、つまりは病身を押して、公私にわたって青年教育につとめたわけである。そして東京の地で、これからの時代を築く青年を教育していくことは、清沢満之の生涯を貫く悲願であった。

 一方の西田は、京都大学を停年退職後、晩年は鎌倉に別荘をかまえ――つまりは関西と関東を往来しつつ――論文の執筆活動にはげんだ。とくに死の直前、太平洋戦争が終息を迎えようとしていたさなかに、鎌倉の地で著された最後の完成論文は、親鸞の思想に深い共鳴を示した宗教論であった。その名を「場所的論理と宗教的世界観」という。そして西田は、この論文を「自分でなければならない仕事」と称し、最期の力をふりそそいだ。

 とうてい、この二人と自らの境遇とを重ね合わせることはできないし、その必要もないだろう。けれども、清沢が東京の地にかけた思いと、西田が遺(のこ)した「自分でなければならない仕事」という言葉は、この三年間、ことあるごとに頭のなかをよぎり、ここぞという時の支えとなっていた。

 じつは、本エッセイが、私が東京の地で「仕事」として書く、最後の文章である。そのためずいぶんと気負ってしまい、締め切りを大幅に過ぎてしまった。言葉が出てこなかったのである。もちろんその背景には、先の熊本地震の報を受け、「このような状況でいかなる言葉を発したらよいのか」といった逡巡(しゅんじゅん)もあった。
 しかし、それ以上に楔(くさび)となったのは、「自分でなければならない仕事」という言葉への執着、つきつめれば他人からよく見られたいという色気であり、自分はもっとましな文章が書けるといった妄念妄想であった。そうして、同僚たちに迷惑をかけつつも、何とかしぼり出して一つの文章を書いた。

 ところが、その文章を出した矢先に、私にとってもっとも身近で、ことに信頼を寄せていた学友が急逝したとの報を受けた。彼とは、まさにこの西田や清沢の遺した言葉を通じて出会い、交流を重ねてきた。あまりの衝撃に頭がぐるぐると回り、おおいに動揺したが、不思議と感傷的な思いにはならず、涙も流れなかった。しかし、今の自身を包む、言いようのない感情が何であるかと問われれば、それはやはり「悲しみ」と呼ぶよりほかはない。
 「悲しみ」とは、がんらい「〜しかねる」と同じ語義で、「自分の力ではとても及ばない」と感じる切なさを指す。そしてあの文章では、今の状況における「自分でなければならない仕事」にはならないと思い立ち、無理を言ってこの文章と差し替えさせてもらうことにした。

 ここにおいて、あらためて哲学者・西田幾多郎の遺した言葉をたずねたい。


弥生の死は誠に突然にて驚きました。近年は特に親切に孝行を尽しくれ懐しく思っていたのに、何とも云い様のない淋しさと悲哀に沈んでいます。併(しか)し私はしっかりしています。自分でなければならない仕事を少しでも多くして後にのこして置きたいとおもい居ります。 (1945年2月21日、西田麻子宛書簡)
 私の「仕事」と、かの友との「対話」は、ここから始めていかなければならない。

名和 達宣(親鸞仏教センター研究員)

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