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Vol.23  アーレントとヤスパースの往復書簡の翻訳が出た(大島かおり訳『アーレント=ヤスパース往復書簡』みすず書房)ので読んでいると、アーレントはヤスパース(1883〜1969)の主著『真理について』(1947年)を、「あなたの本のうちで最高のもの」であり、「西洋哲学の最後の本」であると同時に「世界哲学の最初の本」ではなかろうか、と書いている。
 しかしこの著作は、この世に存在しなかったかもしれないのである。ナチによるドイツ支配のただ中で、ヤスパースは大学から追われ、出版のあてもなくこの本は書きつがれた。彼の妻ゲルトルートはユダヤ人であったから、強制収容所へ移送されることになったら、その前に二人で死ぬ覚悟をヤスパースは決めた。当時の日記にこうある。「著作はどんどん書きつがれている。この著作は私に最大の視界を開いてくれる。(中略)しかし著作は絶対的なものではないし、人の思うままに作り出せるものでもない。私がゲルトルートと一緒に死なないで、彼女が抹殺されるなら、著作もまた死ぬ。著作というものが生き、育つのは、二人の絆(きずな)という充実するものがあるときだけである」(ヤスパース『運命と意志』)。
 これが、「おたがいの著書を、ごく副次的なものとして扱うこと」にしよう、そして、あふれんばかりの聴講者について「あってもなくてもいいこんな成功ぜんぶよりも、あなたが私と心ひとつなら、そのほうが私にはもっと大事なのだと感じる」とヤスパースがアーレント宛に書く意味である。それが、やはり「〈有名な女性〉なんてぞっとします」と書くアーレントをして、彼女の学生時代、ヤスパースに師事していたころを思い出して、「あなたが励ましてくださったとき、私は生涯のあとにも先にもそのとき一回だけ〈功名心〉に燃えたのでした―あなたを〈失望〉させまいという功名心に」と書かせる理由である。
 仕事の世間的な成功、立派な著作、そうしたものは人生の表層に過ぎない。人と人とを結びつけるものなくしては、それは空虚である。しかし、いったい何が本当に人を結びつけるのか。概念、主義主張、功績、名聞、才能、そうしたものでは一切なく、そうした表面的なものすべて超え出て、そうしたものがあろうがなかろうが、生ける人間の醸(かも)し出すある種の雰囲気、そしてそこに現われ出てくる語りぶりや身ぶり、そこにのみ、人を結びつける何ものかが、この上もなく現前するのを、ヤスパースもアーレントも見てとったのである。

越部良一(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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