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Vol.27:「正論」が正論として響かないのはなぜか 嵩海史  現在放送されている、NHKの連続テレビ小説「ファイト」は、朝から見る者の心を暗く、重くさせるドラマである。それでいて、人生とは何かを考えさせてくれるから不思議である。
 主人公は群馬県に住む16歳の女子高生で、父と母、そして弟の4人家族である。父親は小さなバネ工場を営んでいたが、バネを買い取ってくれる大手商事会社の不正をマスコミに漏(も)らしたことにより、商事会社の恨みをかって、工場は閉鎖してしまう。父親は倒産した工場の職員に退職金を払うため、まだローンの残っている自宅を手放すはめに。そのため、家族は離散状態になってしまう。父親は再稼動の術(すべ)を模索しようと工場に住んで奔走し、母親は「自宅より工場を選んだ夫とは距離を置きたい」と言って、弟を連れ、知人の温泉旅館へ住み込みで働いてしまう。主人公はどうしたかというと高校に通っていたため、父と一緒に工場に住むことになった(注:その後ドラマに進展があったがここでは触れない)。
 実は、工場を倒産に追い込んだ商事会社の担当者は、父親の大学時代の友人であり、その娘は主人公と一番の親友であった。親同士のいざこざのあおりをうけ、主人公はその友だちと学校で会うことが気まずくなり、ついには登校拒否になってしまう。父親は「学校へ行きなさい」「学校に行きたくない理由を言いなさい」と畳み掛けるように話かけてくるが、その遠因が父親にあるとは言えず、主人公は針の筵(むしろ)にいるような毎日を過ごす。
 そんな状況のもと、「学校は友人をたくさん作るところなんだ。社会に出たら利害関係をもつような友人しかできないんだぞ」と父親が説得しようとする。でも「友人はたくさんいらない。お父さんだって友だちに裏切られ、不正をされたじゃないか。一人でいい。一人信頼できる友だちがいればいい」と主人公は泣きながら応戦するのであった。
 すると、父親は「高校に入るとき、大学に進学するためにしっかり勉強するって言ったろ」と約束をもち出すが、「お父さん、お母さんはいい大学を出たけれど、いま、苦労してるじゃないか」と反論する。その結果、父親はしばらくは主人公をそっとしておこう、無理に高校へ行かすことはやめようと不満ながら高校休学を承知したのだった。
 学校は勉強するためのところ。学校は友人をたくさん作るためのところ。父親の説得は、極めてまっとうな主張である。しかも親として、そんなに無理のない働きかけのように見えた。しかし、こういった正論は一般論としては成立するだろうが、ドラマを見る限り、正論が正論として通用しない。現に、主人公が高校に行かなくなることについて、NHKに大量の苦情が届かないことがそれを証明している。つまり、私たちは個別の状況によっては、一般論も吹き消すような生き方をしている。そもそも正論で生ききることのほうが難しいのである。私たちは厳しい現実の世界に、七転八倒し、地を這(は)うように生きている。だから、ドラマを見るものは、主人公の親への涙の訴えが、正論を上回る迫力のある主張に感じられるのである。「ファイト」のこのシーンを見て、無茶苦茶だけど人生の転機において真剣に生き方を模索している者の叫びは、正論を打ち負かす力があるのだとあらためて気づかされた。

嵩 海史(親鸞仏教センター研究員)

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