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Vol.52:出せなかった結論 春近敬  2007年の6月、ポーランド南部のオシフィエンチムという小さな町を訪れた。この町には、ナチ政権時代のドイツによって作られたアウシュヴィッツ強制収容所跡とビルケナウ強制収容所跡(いわゆる「アウシュヴィッツ」とは両収容所の総称である)があり、博物館として公開されている。ここでは、1940年6月から1945年1月の4年半の間に、ユダヤ人を中心におよそ150万人もの人びとが殺された。これは当時のドイツの政策として決定されたもので、非常に綿密かつ合理的なシステムが組まれ、「合法的」に大量虐殺が行われ続けた。
 正直に言えば、訪れる前は「アウシュヴィッツを実際に見て実感することによって、何か得るものがあるだろう」という非常に浅はかな考えがあった。しかし、実際に現地で自分が感じたことは、事前の予想と大いに異なるものであった。端的に言えば、「実感」が事実に追いつかなかったのである。
 いまさら言うまでもないことであるが、アウシュヴィッツは有史以来、未曾有の惨劇であり、この過ちは二度と繰り返してはならないし、そのためにも語り継がれなければならない。しかし、アウシュヴィッツのガス室や銃殺刑場、それにいくつもの大部屋を埋め尽くす遺髪や遺留品の山を見ても、またビルケナウの途方もなく広い敷地に残る居住棟や貨物線を歩き、遺灰置場の跡地に立っても、自分の「実感」は、この場所で行われたあまりに恐ろしい現実に届かなかった。
 もちろん自分の想像力の貧困さが主因ではあるのだが、ここまで明らかな物的証拠をこれでもかと見せつけられても、毎日、ヨーロッパ全土から人間をすし詰めにした貨物列車が到着し、毎日平均して700人以上の人間がまとめて殺されて焼却され、それが4年半にもわたって事務的に続けられたという現実は、どうしてもいまの自分の想像力を超えてしまっていた。本物のガス室も本物の遺髪も、自分の想像を補完するにはまだ足りなかった。文字どおり「想像を絶する世界」に出合ってしまったのであった。
 自分は「何か得るものがあるだろう」と、アウシュヴィッツに対して何らかの結論を求めていた。しかし、訪れて2ヵ月ほど経ったいまも結論が出ないどころか、むしろ自分が日常的に下している結論に対する疑問すら生まれてしまった。普段の自分は、物事に対してごく短い時間だけ思いを馳(は)せて、それで理解したつもりになっていないだろうか。懐疑論に陥(おちい)りたいわけでは決してないが、安易に結論を出すことによって、物事を簡単に片付け過ぎてはいないだろうか、と考えさせられる経験となったのである。
 オシフィエンチムでの経験については、しばらくは安易に結論を出そうとせずに、長く学び、考え続けていく外にない、というのが現時点での正直な感想である。

春近 敬(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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