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keyword:時間/未来
Vol.59:名前入りの万年筆 常塚 聴  私の近所の通りには、月に三度縁日が立つ。時間があるときは、私もそのあたりを見て歩くことがある。楽しみの一つが、骨董の品物の中に時たま混じっている、古い万年筆を探すことである。
 ある時、何本か古い万年筆が入れられていた箱の中に、見慣れない一本が混(ま)じっているのを見つけた。国産のメーカーの製品であったが、最近の製品とはデザインが違う。おそらく戦前の製品であろうと思われた。値段を聞いてみるとかなり安い。そこでその一本を求めることにした。
 持ち帰ってよく見てみると、この万年筆の軸の中程に「K」という名前が刻まれていた。おそらく前の所有者が自分で彫ったものであろう。彫刻刀の跡がはっきり残っている。その、名前が彫られた一本の古い万年筆をじっと眺(なが)めているうちに、それはだんだんと重くなっていった。いま私の手の中にあるこの一本の万年筆の上には、長い「時間」というものが乗っている。
 いま私が持っているこの万年筆を、かつて誰かが持っていたのだ。その人はこの万年筆に自分の名前を刻み込み、この万年筆を握って、いくつもの思いを書き記したに違いない。長い時間を見てきたであろう品が、いま、私の手の中にある。かつてこの万年筆を握っていた人の「時間」もその中に含んで、黒い万年筆の重さが手のひらに感じられた。
 目を転じれば、私の部屋の中は実にさまざまなものであふれている。そのどれも、「時間」をその中に含んでいないものはない。この名前入りの万年筆が私のもとにやってきたように、いまは私の手元にあるものも、かつては誰か別の人のもとにあったものであるし、そして、いずれは私のもとを離れていくのだろう。「私のもの」といっても、実は未来へとつながる長い時間の中のほんの一時、私のもとにとどまっているに過ぎないのではないだろうか。私はそれを、未来の「時間」からわずかな間、預かっているだけなのだ。古い万年筆の重さはまた、未来へと「時間」を引き継いでいく責任の重さでもあるのだろう。
 後日、万年筆の修理ができる知人にこの万年筆を見てもらったところ、インク吸入機構は修理できるが、ペン先がだいぶすり減っているので、このままでは使用するのは難しいだろうということだった。なんとか使えるようになるように、別の知人に頼んで交換できるペン先を探してもらっている。次の「時間」に向けて、この名前入りの古い万年筆は、いまはしばらく私の部屋で休息の時を送っている。

常塚 聴(親鸞仏教センター研究員)

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