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Vol.70:「故郷」の離合 春近 敬  以前、ドイツ東部の都市ライプツィヒを訪れたとき、現地に住む方からこのようなことを聞いた。ドイツ人に対して、出身が旧東ドイツか旧西ドイツかを無闇に訊(たず)ねてはいけない、と。これは、直接的に「あなたはどちらのお生まれですか」と聞かないだけでなく、結果的にであれ、出身地を互いに意識させるようなことにならないよう、会話の方向に気を配るべきだというのである。例えば皆で談笑しているとき、何気なく「学生の頃はどこかへお出かけになりましたか」という話をしたら、その場にいた一人が「いや、若いときは旅行の自由がなかったもので」と答えるかも知れない。旧東ドイツでは、一般に旅行は大幅に制限されていたのだ。必然性もなしに旧東・旧西というように意識化されることが、ある種のタブーとされているのである。
 この話を聞いた当時、既に1990年の東西ドイツ統一から17年が経っていた。ライプツィヒは旧東ドイツに位置するが、大都市であり再開発工事が進められていることも相まって、他の旧西ドイツの都市との表面上の違いは、(住んでみればわかるのであろうが、短期間滞在しただけの自分の目には)あまり感じなかった。ライプツィヒ大学の図書館で少し古い本を開いたら、蔵書印が「カール=マルクス大学」という旧東ドイツ時代の大学名になっているのを見つけて、改めて思い起こしたぐらいである。しかし、東西の分裂と統合は、そこに生きる人の心の底に、まるで澱(おり)のように葛藤を残し続けている。
 一方で、ライプツィヒには「現代史博物館」という入場無料の博物館がある。第二次世界大戦後の東西ドイツ史に関する博物館で、政治資料や新聞記事、各種文化、家電製品や生活雑貨に至るまで、東西のドイツがそれぞれ全く異なる道を歩まされたことを平行して見せてくれる。展示の最後では、その異なる東西がふたたび統一を果たした後の混乱と、課題について語られる。自分はここの展示を見ているうちに、肌がはっきりと粟立っていくという経験をした。どちらの歴史が良かったとか悪かったとかいう話ではなく、暮らしていた一つの場、すなわち「故郷」が国境により分断され、それぞれ対立する形で生きることを強いられたうえで、その別々となった「故郷」がまた一つに統合されるとはどういうことなのか、仮にこの現実のなかに自分がいたらどのように考え、生きるのだろうかと考えると、答えの出ないままに身震いが止まらなくなったのである。
 日本にも、終戦後から今に至るまで国境の狭間に翻弄(ほんろう)され、「故郷」というものに対して葛藤を抱える人々は数多くいる。しかし、自分は偶然平穏な場に生まれ育ち、たまたま「故郷」のあり方が揺るがされる経験をせずに生きてきた。それゆえ、自分の「故郷」について思いを馳(は)せることはほとんどなかったのだが、ライプツィヒでの経験は、果たして自分の「故郷」とは一体何なのであろうか、という問いを抱き続けるきっかけとなったのである。

春近 敬(親鸞仏教センター研究員)

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