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Vol.72:奪われる時間と生きる意欲 法隆誠幸  「世知辛(せいちがら)い世の中になりました」最近、年配の方々の口からこんな言葉を聞くことが度々あった。さらに、「どうして、こういう世の中になってしまったんですかね……」という言葉が続く。
 世知辛さを感じているのは、何も年配の方々だけではないだろう。介護、雇用、育児など、生活実感として、一人ひとりがそのように感じている。子供であっても例外ではないのかもしれない。その中で、現況打開を目指し、各方面における名だたる方々が実にさまざまな提言をされているが、「即効薬はない」ということだけは共通認識のようである。幾多の問題が複雑に絡(から)み合う現代社会であれば、それも当然と言えるだろう。しかし、一方で問題はもっとシンプルなことのようにも思えるのである。
 例えば、ミヒャエル・エンデ(児童文学作家)に『モモ』(岩波少年文庫)という著書がある。1973年に出版されたこの作品は、小学校高学年から読めるほど平易な内容であるが、「時間とは何か」を問うた名著である。
 人びとから時間を盗む"灰色の男たち"のひとりが、主人公であるモモに語りかけた言葉が興味深い。
「人生でだいじなことはひとつしかない。それは、なにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。ほかの人より成功し、えらくなり、金もちになった人間には、そのほかのもの――友情だの、愛だの、名誉だの、そんなものはなにもかも、ひとりでにあつまってくるものだ。きみはさっき、友だちがすきだと言ったね。ひとつそのことを、冷静に考えてみようじゃないか」
 さらに、灰色の男は続ける。
「きみがいることで、きみの友だちはそもそもどういう利益をえているかだ。なにかの役にたつか? いや、たっていない。成功に近づき、金をもうけ、えらくなることを助けているか? そんなことはない。時間を節約しようという努力をはげましているか?まさに反対だ。きみはそういうことをぜんぶじゃまだてしている、みんなの前進をはばんでいる! たぶんこれまできみは、それに気がつかなかったんだろうね、モモ(中略)そうだ、そのつもりはなくとも、きみはほんとうはみんなの敵なんだ!」
 また、別の場面で灰色の男は次のように言い放つ。
「この世界を人間のすむよちもないようにしてしまったのは、人間じしんじゃないか。こんどはわれわれがこの世界を支配する」
 

ここに、世知辛いという言葉が重なってくる。モモというのは、相手の話をじっと聞くことで、その人に自分自身を取り戻させることができるという不思議な能力をもった少女である。自分自身を取り戻す、ここに人びとは本当の幸せを感じていたのである。しかし、そんなモモという存在を灰色の男たちは恐れ、モモから町の人びとを遠ざけることで、時間を奪い、人びとを操(あやつ)ろうとする。36年も前の作品であるが、あたかも現代を予見していたかのような内容となっていることに注目させられる。時間を奪われた人びとは、生きることそれ自体も奪われてゆくのである。
 今、私たちに問われていることは、現代を覆う鬱蒼(うっそう)とした枝葉を眺めるより、その根幹を見ることではないだろうか。とかく上や外にばかり向きがちであった視線を足下へ、内面へ移してみる。すると、『モモ』でさえも単なる童話では済まされないことに気づくだろう。
 一体、灰色の男とは何であるのか……。その正体に気づけたならば、世知辛い世にあって本当に生きようという意欲が、あらためて立ち上がってくるに違いない。

法隆誠幸(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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