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Vol.74:陸に上げられた魚 越部良一  「私は、以前から、自分の生き方に関して妙なイメージがある。自分が、まな板に載せられた魚になっている。水から上がっているから苦しい。息が苦しくて、ハアハアと言っている。[中略]そうやってもがいている光景が目に浮かぶのである」(オノ・ヨーコ『ただの私』講談社)。オノ・ヨーコの作品に、観客や読者に指示(インストラクション)を与えるというものがある。その一つが、「息をしなさい」である。また、ジョン・レノンの曲「イマジン(Imagine)」にインスピレーションを与えた、(これこれのことを)「想像しなさい」というのもある。
 生き物として産まれて呼吸できないとか、魚として生きて水を得ないとかいうようなことは、あってはならないことのように思えるけれども、精神的な事柄としては、それが常態だと知ることはできる。これは自己の内面の在り方、例えば価値観というようなものに依るから、オノ・ヨーコは「芸術家の仕事は社会の価値を変えるということです」と言うのだが、「社会の価値を変えるというのは、つまり社会を変えることと同じですか」という問いに、「違います」と答えるのである(飯村隆彦『YOKO ONO』文化出版局所収のインタビュー)。価値とは内面のものとしてまずある。
 そしてこの内面の在り方しだいで、自分は自分に殺されかねない。プラトン(『国家』)を引くなら、人間の魂は三分され、その一は欲望を満たすために金銭を追い求める「多頭の怪物」であり、他の一は勝ちを追求し、「ライオン」に譬(たと)えられ、あと一つは思惟(しい)する部分で、善のイデアを追求しうるのであるが、これがようやく「人間」なのである。怪物たる欲望と野獣たる勝利欲に引きずられ殺されかねない状態から、上の譬えで言うなら、水であり呼吸空間に相当する、善美のイデアへと内面の向きを変えること、そうして怪物と野獣を制し御することが、人間の課題となる。そのためには、現に手で掴(つか)めるようなものだけに価値を置くことから脱しなければならない。
 インストラクション作品集『グレープフルーツ』の文庫版の序で、オノ・ヨーコは子供の頃の経験を語っている。それは、第二次大戦中、疎開先でひもじい思いをしているとき、いつもは元気な7歳の弟がしょげているのを見て心を痛めた彼女が、二人で「架空のメニュー」を考えだすことを思いついたというものである。「豚汁」、「ミートローフ」、「アイスクリームとショートケーキ」、「そんなに食べたら、おなかこわしちゃうわね」というように空想していくと、「弟はおどけて、でんぐり返しをしてみせました。おなかがいっぱいで、もう大丈夫だというように。私は今でも、そのときのことを時々思いだします」(『グレープフルーツ・ジュース』講談社文庫)。今でも思いだすのは、彼女がこれを精神の事柄として引き受けたからである。そして精神の事柄として言うなら、子供がでんぐり返しをするように、空想し、考えるということが、生きるということだと、つくづくと思わざるを得ない。

越部良一(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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