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keyword:常識・時代
Vol.79:たばこと時代 春近敬  実家の物置を整理していたら、高校時代に撮った写真が大量に出てきた。当時、写真部に所属していたこともあって、日頃から何でもない風景や町並みの写真をたくさん撮っていた。作業の手を止めて眺めていると、そのうちの一枚に目が止まった。ある駅前の風景を撮った写真なのだが、駅ビルの入り口に置かれた灰皿にたばこの吸い殻がたまり、さらに火を消さないまま捨てられているせいで、金属製の灰皿の口がまるで浅草寺の常香炉のようにもうもうと白い煙を上げている。今ではあまり見かけなくなった光景である。思い起こせば、子供のころは、駅の線路にホームから投げ捨てられた吸い殻が一面に散らばっていた。飲食店はもちろん、会社のオフィスや学校の職員室にまでたばこの煙が充満していた。いずれも、現在の「常識」では考えられない光景である。
 日本たばこ産業株式会社の調査によれば、2008年の成人喫煙率は男性で39.5パーセント、女性で12.9パーセントである。これが、1966年は男性83.7パーセント、女性18.0パーセントであった。つまり、男性に限って言えば、大人はたばこを吸うのが「当たり前」だったのである。冒頭の写真が撮られた1995年でも、男性58.8パーセント、女性15.2パーセントと、ようやく男性の喫煙率が6割を切ったころである。先に挙げた光景は、喫煙者が多数派であった当時はそれほど「非常識」的なものではなかったのである。
 たばこの煙が及ぼす健康的被害については、議論を待たない。そして、たばこの持つ依存性も周知のとおりである。現在は世界的に禁煙化・分煙化の流れが進められ、喫煙者に対する世間のネガティブな視線も年々強まっている。たばこにまつわるさまざまな「常識」も、明らかに変容した。このような流れは医学的には「正しい」動きであるし、この問題に関して言えば、おそらく世界は「良い方向」に向かっているのである。
 ところで、筆者はたばこを吸わない。これにはもちろん健康上の理由もある。しかし、それ以上に、自分の欲望に対する意志の弱さを鑑(かんが)みれば、もし本格的にたばこの味を覚えてしまったら、たばこを一生やめられない自信があったからである(「やめられる自信がない」どころではない)。筆者が成人した当時はすでに禁煙化が進められており、もし自分が、たばこと共に生きるならば、きっと将来、喫煙者が被るであろう肩身の狭さと、それでもなお、たばこを止めることのできない依存性のために相当な精神的負担を感じるに違いない、という打算が働いたのである。
 仮に自分が、たばこを吸うのが「当たり前」な時代に生きていたら、おそらくは何のためらいもなく吸っていただろうと想像する。そして、今ごろは多くの喫煙者がそうであるように、禁煙に対する意識で苦しんだのである。そのような「もしも」の自分を思い描いて、自分の生まれついた世代に感謝するとともに、世の中の「常識」や価値観は、案外短いスパンで変わってしまうものだということを、十数年ばかり前の写真から改めて感じさせられたのである。

春近 敬(親鸞仏教センター研究員)

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