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Vol.83:サバイバル・キット式思考 常塚聴  小さい頃読んだ本に、「サバイバル・キット」の作り方というのが載っていた。マッチ箱ぐらいの大きさの箱に、糸と針、紙切れと短い鉛筆、何本かのマッチなどの野外生活で役に立ちそうなものを入れ、小さい箱ひとつあればいろいろなところで役に立つというようなものだった。それを見た私は、さっそく家の中からマッチの空き箱を探し出し、その中にあれこれと小物を詰め込み始めた。そのうちに段々と、できるだけ小さいスペースに多くのものを入れることに興味が移っていった。さまざまなものをパズルのように組み合わせて、きれいに小さい箱の中に収めることができたときは、ささやかな達成感を味わうことができた。
 箱に収めるものも何でもいいというわけではないのだ。野外に持ち出せるのが小さなマッチ箱ひとつに収まるものだけという状況では、ごく限られた道具でさまざまな環境に対応していかなければならないからだ。サバイバルの現実に立ち向かうためには、ひとつの道具をその道具の意図された本来の用途だけに使うのではなく、いわば道具の「意図しない使われ方」を探すことが必要となる。それとともに、何かの役に立ちそうなものは「とりあえず」道具箱に入れておくことも生き延びるためには大切になってくる。  糸の切れ端、あるいは紙切れ一枚でも、これはこういう場面でこういう風に使うことができる、という意外な使い道を発見するのは面白く、またそれをどうやって箱に収納しようかと考えるのも面白かった。
 もちろん、子どもが作るようなものが役に立つわけではなく、私もその苦心の作を本当に野外で使うことはなかった。実際、大人が見たらただのがらくたか、ゴミの寄せ集めにしか見えなかっただろうと思う。
 「サバイバル・キット」のマッチ箱を持って野外に出ることはなかったが、ここから学んだ、いわば「サバイバル・キット」式の思考法というものを、私はその後もしばしば使ってきたように思う。
 無人島に漂着して、手元にあった道具だけで何とか生き延びなければならない、というようなことは滅多にあるものではないが、実はそれに似たような状況というものにはしばしば遭遇するのである。人間一人の経験と能力には限界があるので、あらゆる状況に対してそれに完全にフィットするような知識や技能をあらかじめ用意しておくというわけにはいかない。いわば私たちは、自分の持っている手持ちの道具と技術だけで現実を切り開いていかなければならないのである。
 その際にふたつの方向性があるといえるだろう。ひとつは「サバイバル・キット」式に、手持ちの道具と技術をなんとかやりくりして対処する方向。もうひとつは、自分の手持ちの道具とそれを取り扱う技術を洗練させ、それで対応できないものには手を出さないという方向である。普通、専門家というものは後者の方向を選択するものである。昔の中国の宮廷には、ネギを切る専門の料理人がいたという。その料理人は、ネギは完璧に切れても他のことは何もできなかったと伝えられている。フグの料理人なら、フグの調理技術を磨くとともに、フグ料理専門に作られた調理道具を使うであろう。フグ用の包丁では肉や野菜は切れないのである。
 私は、「サバイバル・キット」式に、それとは違うやり方で考えてきた。ひとつの技術を専門的に磨くことももちろん大切であるが、現実の世界に対応していくためにはそれ以上にその技術をさまざまな状況に対応できるようにすることが必要だと感じているのである。
 例えばナイフ一本だけでは、専門の料理人のようにうまくフグをさばくことはできないであろう。しかし、ナイフをうまく使えば魚だけでなく肉や野菜も切ることができる。フグ専門の料理人がフグ用の包丁を持っていれば、作れる料理はフグ料理だけであり、フグ以外の食材にはお手上げである。しかし、ひとつの道具をさまざまな食材に応用することを考えれば、その場にある食材から、ふぐ刺しやてっちりではなくても、思いがけずおいしい料理が作れることもあるのではないだろうか。そこで作られた料理がまた、それを食べる人を喜ばせることもあると思える。
 そこで私は、自分の持つ技術を「意図しない使われ方」で使うこと、そしてできるだけ多くの道具を自分の道具箱に集めておくことを心掛けている。現実の世界という「無人島」に漂着したものとして、あの子どものときのように、「サバイバル・キット」にまた道具をいろいろと詰め込みだしているのである。

常塚 聴(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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