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keyword:バリアフリー、電力
Vol.97 気づかなかった「前提」 春近敬

 2006年にバリアフリーに関する法律が改定され、各所で公共施設の改修が行われた。私が普段使っている埼玉県内のある駅は、地上の入口から階段を上って2階にある改札口を抜け、1階にあるホームに再び降りていく構造になっている。かつては、入口の横からホームに通じるスロープがあって、車椅子の乗客は2階の改札口を通らずに直接ホームに入ることができた。法律の改定後に、スロープがあった場所に新たに2階まで昇るエレベーターが設置された。私はそのときには、特に何の感想も抱かなかった。車椅子の方は駅員の方を呼んでホームへの扉を開けてもらい、改札をしてもらっていたので、お互いにその手間が省けただろうなという程度のことしか考えなかった。また、同じく地元にある別の駅は、改札口は地上にあるのだが、反対側のホームに行くためには階段しかなかった。そこで、その駅には線路をまたぐ橋が新たに架けられたが、エレベーターでしか上り下りのできない橋であった。私は、階段が設置されていないその橋の構造に多少の違和感を覚えながらも、便利になったのだろうな、と考えていた。
 そして、3月11日の地震の後、両駅を含めてその路線のすべてのエレベーターとエスカレーターは停止した。現在(6月時点)はエレベーターのみが動いているが、節電のため「極力使用しないでください」という張り紙がされている。以前あったスロープはエレベーター設置のためにつぶしてしまっていた。公共施設で多少なりとも進められてきたバリアフリーの施策は、電力の使用を前提としたものだったという当たり前の事実に、地震が起きる前の私は気づいていなかった。
 張り紙を見たとき、私は数年前にイタリアのあるローカル線に乗った際に、車窓から見えた小さな駅の地下通路が階段でなくスロープになっていたことを思い出した。それも、車椅子が少しでも動きやすいように非常にゆるい傾斜のスロープだった。傾斜が緩い分、線路をくぐるための移動距離は当然長くなり、また地下通路の入口は狭いホームの大部分を占めていた。それを見た当時の私が思ったことは、「こんな小さな駅にエレベーターを設置するコストはかけられないのだろうな」だったのである。事実そうだったのかもしれない。しかし、大量のエネルギー消費に依存しなければ、ほんのわずかな距離でも満足に移動することができない、という私たちの国の発想のいびつさに、当時の私は思い至らなかったのだ。
 「今回の大震災が私たちに突きつけた課題は、あまりにも大きい。」このような言葉は、この3ヶ月弱の間に何度となく繰り返されてきた。そのとおりである。私たちが向かい合わなければならない事実は、途方もなく大きく、重く、数知れない。しかし、今後の私たちは、今の時点ですでに意識し始めていることに加えて、さらに多くの「前提」とそれがもつ課題に気づかされるのではないだろうか。おそらくは、私たちが生きていくうえでの細部に至るまで、無意識に抱えていた「前提」のとらえ直しを迫られるのではないか。そのように、今の私は考えているのである。

春近 敬(親鸞仏教センター研究員)

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