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Vol.177 念仏の奥義、もしくは真宗の簡要 親鸞仏教センター嘱託研究員 越部 良一

 親鸞は、『教行信証』の終りに、法然の『選択集(せんじゃくしゅう)』についてこう書く。「真宗の簡要、念仏の奥義、これに摂在(しょうざい)せり」。『選択集』における「真宗の簡要」、「念仏の奥義」が何であるか、親鸞は当該箇所で論じていないから、私の見るところを記すことにする。

真宗(『選択集』の「浄土宗」)の簡要:「二種の信心」。
 生死(しょうじ)の家には疑ひを以(もっ)て所止(しょし)とし、涅槃の城には信を以
 て能入(のうにゅう)とす。
 故に今、二種の信心を建立して、九品の往生を決定するものなり。 (『選択集』三心章)

念仏の奥義:「十劫正覚」。
 仰いで本地を討(たず)ぬれば、四十八願の法王なり。十劫正覚の唱へ、念仏に
 憑(たの)みあり。
 俯(ふ)して垂迹(すいじゃく)を訪(とぶら)へば、専修念仏の導師なり。三昧正受
 (しょうじゅ)の語、往生に疑ひなし。
 本・迹、異なりといへども、化道これ一なり。 (『選択集』結観)

 これを奥義文と呼ぶことにする。

 奥義文中の「三昧正受」とは「道に於て其(そ)の証(しょう)有り」(『選択集』、以下同じ)と言い換えられるものである。この「道」は「願力の道」であり、これは「大悲願力」である。これは「清浄願往生心」であり、この心は「深く信ずること、なおし金剛の若(ごと)く」と言われるから、「深信」(二種の信心)であり金剛心である。また、奥義文中で「十劫正覚の唱へ」と「三昧正受の語」は「一」とされている。以上で、二種の信心が三昧正受であり、十劫正覚と一つであることが証明された。ただし、三昧(信心)が「導師」たる善導に付き、正覚が「法王」たる弥陀(本願)に付く限りは、主体となるのは「本地」たる弥陀の正覚(念仏の奥義)のほうである。これを他力と言う。

 「二種の信心」とは、「一は決定して深く、自身は現にこれ罪悪生死の凡夫、曠劫(こうごう)より已来(いらい)、常に没(もっ)し常に流転(るてん)して出離の縁あることなしと信ず。二は決定して深く、彼の阿弥陀仏の、四十八願を以て衆生を摂受(しょうじゅ)したまふこと、疑ひなく慮(おもんばか)りなく、彼の願力に乗つて定んで往生を得と信ず」(善導からの引文)。前者を第一信心、後者を第二信心と呼ぶことにする。この信心全体の主体、主語は「十劫正覚」、つまり弥陀であるわけだから、第一信心を語っている主体は弥陀である。文中の「自身」は凡夫であるから、第一信心では認識主体の弥陀と認識される凡夫とが自己として一体である。第二信心の「阿弥陀仏」は、第一信心で顕(あら)わに表現されない弥陀が、外に他者としてその姿を示し現したものである。この次第は、一(一体の自己)から二(自・他もしくは衆生・他)へ、である。これを、二から一へと顛倒(てんどう)させる、つまり、外に弥陀を置くことから始めるなら、そこではたやすく、仏との一体化とは自身を大悲と見ることだと誤想し、またその弥陀と自己の大悲が世界の展開となると空想することになる。

 真の一は自己を罪悪生死と見ることにある。第二信心からすれば、この第一信心は弥陀から賦与されたものであるから、こう言える。弥陀が私を救わんがために我となって、十劫に渡って流転の中に身を投じ、「今」、自身が「極悪最下の人」であることを覚(さと)らしめ、浄土を願わしめるのであると。覚るのも願うのも弥陀である。第一信心に立ち還れば、覚るも願うも自己である。よくよく二種の信心を見、つらつら思うに、真宗の簡要の極意は第一信心に立ち還ることにある。つまり、自己に立ち還ることにある。ここにこそ正真正銘、弥陀との一体がある。衆生とも、お前とも、我々とも言われず、「最下」と言うも世間の比較の範疇(はんちゅう)にないそこで、文字通り一人となり、その宇宙的孤独は世界を超える。

越部 良一(親鸞仏教センター嘱託研究員)

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