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親鸞仏教センター通信
第55号 December 2015
What A Wonderful World

親鸞仏教センター研究員 名和 達宣
 「なんて、この世界は……美しいんだ」
 ――遠藤周作の小説『女の一生 二部・サチ子の場合』(新潮文庫)の一場面である。現前の世界を「美しい」と称したのは、第二次世界大戦下、ナチスによってアウシュビッツ強制収容所に連行されていた一人の囚人である。何の悦(よろこ)びもない、拷問による恐怖と悲惨だけが続く絶望の世界を生きていた人間が、ある神父の死を聞いた後、うるんだ硝子(ガラス)玉のような夕陽が落ちていくなかで思わず吐いた一言である。その神父は「愛がない世界ならば、愛をつくらねば…」という言葉を遺(のこ)しつつ、他の囚人の身代わりとなって命を落とした。実在の人物がモデルであり、名をコルベと言う。
 この場面に出くわしたとき、なぜか想起されたのは“What A Wonderful World”という歌だった。ルイ・アームストロングのしゃがれた歌声が印象的な名曲に、日本では「この素晴らしき世界」という題名がついた。はじめて耳にしたのは、英語の意味も何もわからない小学生のころ。数年後に『グッドモーニング,ベトナム』という映画を通じて、この歌の根底には、ベトナム戦争への深い悲嘆があることを知った。あの小説を読んでいるときに突然鳴り響いたのも、はたまたわが国の行く末を案じるごとに思い出されたのも、奥底に流れる悲しみが共振したからにちがいない。
 あるとき、ふと思い立って「素晴らしい」という言葉の語源を調べてみた。「さぞ“素晴らしい”意味が込められているのだろう」と期待していたが、意外なことに「狭くなる」を意味する動詞の「すばる(窄る)」が形容詞化されたもので、近世までは「ひどい」「とんでもない」といったネガティブな意味で用いられていたという。ならば“wonder”と“-ful(〜に満ちた)”から成り立つ“wonderful”を「素晴らしい」という語で押さえるのは、決して適訳とは言いがたく、それこそ何かを狭めてしまうのではないかと強く感じた。
  一方、仏教者の鈴木大拙は、長いあいだ仏法の不可思議なるはたらきを表す「妙」を英訳するのに苦慮していたが、ある日、偶然手にしたシェイクスピアの喜劇“As You Like It”(邦題「お気に召すまま」)のなかの一句に目が止まり、そこに「妙」なる世界を感じ取ったという。
  O wonderful, wonderful,
  and most wonderful wonderful !
  And yet again wonderful …
 仏教の歴史とは、このような「妙」なるものとの遭遇を、言葉には表せられないと深く知りつつ、それでもなお、言葉に託して語り継いできた軌跡にほかならない。ちなみに、先の小説と歌は、いずれも最後は次世代への願いをもって結ばれる。どんなに平凡に思え、どんなに悲惨に映ろうとも、世界は“wonder”で満ち溢れている、と。
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