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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 近年、AIが人智を超えつつあるという話を耳にするにつけ、我々自身の「意識」や「心」に対する考え方が本当に時代に応じたものとなっているのか、考えさせられる機会が増えている。殊に生老病死を思想の根本に据える仏教においても、そうした苦と向き合うべき「心」は一貫して問われてきた。今、その「心」というものをどう考えるべきか、機械工学から心の哲学と幸福学へと研究を展開されてきた前野隆司氏にご提題いただいた。ここに、「現代と親鸞の研究会」(2017年12月13日)の内容を、要旨の形で掲載する。 (親鸞仏教センター嘱託研究員 飯島 孝良)
心の哲学と幸福論

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科委員長(教授)
前野 隆司 氏

■ 心の哲学への関心
 私は、はじめはロボットの研究をしていたのですが、二足歩行ロボットや医療用ロボットの研究が進むにつれて、ロボットが「心」をもちうるのかに関心が移りました。ロボットが人間のように笑ったり痛がったり振る舞うように作ることはできますが、それはそういう「反応」をするように作っているのであって、人間のように「心」が原因となってあらわれているものではない。あるいは、AIは囲碁のように手順やルールのはっきりしたことはできますが、ルールがあいまいなこと――例えば「現代政治の将来」をさぐるようなこと――はまだ苦手です。
 生物物理学者の松本元さんは、心は「知」「情」「意」「記憶と学習」「意識」の五つにより理解できると言われましたが、その内の「知」「情」「意」「記憶と学習」の四つをロボットにプログラミングすることはできるようになりました。ですが、ロボットに「意識」をもたせることはできていません。「意識」というものの仕組みがまったく明らかになっていないからです。他の生物やロボットと違って、人間に「意識」が生じたのはなぜか。
 そこで、心の哲学ということに興味をもったのですが、これは心や意識、およびそれらの働きと性質、そしてそれらと物理的なものとの関係を研究する学問といえます。心の哲学ではさまざまなテーマが話し合われていますが、最も基本的なテーマは心身問題、つまり心と体の関係についての問題です。それを哲学、心理学、認知科学、統計学などに基づいて帰納的に研究しています。

■ 「意識」のとらえ方と「無意識」
 結論を言えば、私は「意識」はひとつの幻想だととらえています。別の言い方をすれば、「意識」は「無意識」に追従しているものではないかとも考えています。例えば、今、皆さんは私の話を聴いてくださっていますけれど、突然、蜂に刺されたらそれどころではないですよね。意識は刺されたところに一気に注意を向け、「これは大変だ」と何とか対応しようとする。しかしこのとき、「あ、蜂だ!」「危ないぞ!」「痛い!」といったあらゆることを意識しだしたら、「意識」があらゆる内容と結果をすべて把握し統合できる万能なシステムでなければならないことになります。
 そこから、「意識」は司令塔的にすべてを把握し統合するシステムではなく、無意識的に行われたことの結果へ受動的に注意を向けて、あたかも自らが行ったかのように幻想体験しているにすぎない、と考えました。これを「受動意識仮説」と呼んでいますが、この元となったリベット実験というものによると、「指を動かそう」と意図するより、筋肉への指令が発せられる瞬間のほうが0.35秒早いとの結果が出されました。つまり、「意識」は自由意志のもとにすべてをコントロールしているのではなく、「無意識」の結果を見てエピソード的に記憶しているだけというモデルを考えました。こうした、現象的意識は幻想にすぎないのではないか、という考え方は、ブッダのいうところの「無我」説に近いのではないかとも思っています。あるいは鈴木大拙さんが言う「即非の論理」とか「無分別即分別」という考えとも重なると思います。本多弘之所長からは、この「無意識」のとらえ方が唯識の阿頼耶(あらや)識のことではないかとご指摘いただきましたが、これは思ったことのない見方でした。今後、ぜひ考えていきたいと思います。

■ 幸福学
 自分の「意識」について「受動意識仮説」などで見通しがつくと、今度は「他の方も「意識」について悩むことがないといいのに」と考えて、そもそも「幸福」とは何かを考えるようになりました。そこで幸福学ということを考えているのですが、これは人がどのようなときに幸せになるのか、どうすれば幸福度を向上させることができるのか等に関する学問で、主に心理学を基盤としています。主観的幸福の心的要因にどのようなものがあるか、統計学的な手法などで分析していきました。
 そうした分析を通して、「幸福」を構成する四つの因子があることがみえてきました。それは、ー己実現と成長(目的を達成しようとする「やってみよう因子」)、△弔覆りと感謝(感謝する傾向と他者へと向かっていく「ありがとう因子」)、まえむきと楽観(ポジティブで精神的に安定している「なんとかなる因子」)、て販と自分らしさ(自己を確立し他者と比較しない「ありのままに因子」)、といったものです。自分の心というものが幻想であるととらえることで我執から離れ、人がいかにして幸せになるかを考えていく。「心とはそもそも何か」を明らかにするのが智慧なら、「人はいかにして幸せになるか」を問うことが慈悲ということになるのかな、と考えています。

(文責:親鸞仏教センター)

前野 隆司(まえの たかし)氏
 1962年山口県生まれ。1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)。1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、1999年同助教授、2006年同教授を経て、2008年より同大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授(環境共生・安全システムデザイン教育研究センター長を兼任)。2011年4 月よりシステムデザイン・マネジメント研究科委員長に就任(システムデザイン・マネジメント研究科付属システムデザイン・マネジメント研究所長を兼任)。この間、1990年から1992年まで、カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professorを歴任。
 著書に、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房、2004年)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか―ロボティクス研究者が見た脳と心の思想史』(技術評論社、2007年)、『人はなぜ「死ぬのが怖い」のか』(講談社+α文庫、2017年)、『実践 ポジティブ心理学 幸せのサイエンス』(PHP新書、2017年)、『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社、2017年)、『仏教と科学が発見した幸せの法則』(サンガ、2017年)など多数。
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