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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2016年5月19日、親鸞仏教センターにおいて、経済学者の井手英策氏をお迎えして「現代と親鸞の研究会」を開催した。氏は、格差によって分断された現在の日本の状況を憂え、人間共通の普遍的ニーズを満たすという財政戦略を提唱し、人々の社会への信頼を取り戻し、本当の意味で豊かな社会を実現すべく精力的に取り組んでいる。今回は「尊厳と思いやりが交響する財政」をテーマに語っていただいた。ここに、その一部を紹介する。 (親鸞仏教センター嘱託研究員 大谷 一郎)
尊厳と思いやりが交響する財政
―次の世代がその次の世代とつながるために―


慶應義塾大学経済学部教授
井手 英策氏

■ 私が目指す普遍性
 宗教関係の団体に声を掛けていただくのが初めてのことで、とても光栄なことだと思っています。私は人間を区別することを可能な限りなくしたいと思って生きてきました。しかも、その区別の基準がお金ということならば、それに対しては異議申し立てをしなければならないと思っています。この考え方は弱者救済とはまったく違います。そして、恐らくこの考え方に一番近いのは宗教的な価値観ではないのかと思っています。

■ 現在の日本の状況
 現在の日本は、大変厳しい状況に置かれていると思います。年収400万円以下の人たちが非常に増え、6割以上の人々が平均所得以下の貧困層になってきています。共働きの世帯が増えていますが、2人で働くようになったのに世帯当たりの所得は2割以上落ちています。2人で働くようになって所得が2割以上落ちるということは、ものすごいことです。私たちが思っている以上に日本人は確実に貧しくなっています。

 また、いろいろなデータを見ますと、私たちは他の人間を信頼しなくなってきています。そして、自由、平等、愛国心、人権といった価値観、これらの価値観は、時には人間が血を流し、命を懸けて勝ち取ってきた重要な考え方ですが、その大切な価値観をほとんどわかち合えないようなバラバラな国民になり始めています。

■ 勤労国家レジームと自己責任社会
 次に、なぜこのような分断された社会が生まれたのかということを述べたいと思います。私は、日本を勤労国家と名づけています。どういうことかと言いますと、所得倍増計画で有名な池田勇人は、勤労所得減税と勤労の能率を高めるための公共指導という政策をとりました。これは勤労者に所得税を返し、また、貧しい人には公共事業で仕事を提供することにより、自分で働き、貯金しなさいというわけです。戦後このような政策がずっと行われてきました。ですから日本人は、子どもの塾、学校、家の購入から老後の備えまで全部自分でお金を払わなければいけないということがわかっています。要するに、この社会は生きていくための「必要」を、勤労、働いて自分で何とかするというのが前提になっているのです。2000年代に自己責任という言葉が大流行しましたが、そもそも日本は自己責任社会なのです。生活の「必要」を勤労で満たすという自己責任社会を私たちはつくってきたということを、ぜひ記憶に刻んでおいてください。

 しかし、日本の社会は1997年、98年あたりから大きく変わり、勤労国家の形が崩れていきます。非正規労働者の割合が増加し、世帯あたりの所得がこのあたりから下落します。従業員の給与は減らされ、貯蓄率も減少していきます。また、この時期に自殺者が激増します。要するに、自分で働き、貯蓄し、生活を守っていくという勤労国家が終わり、そのようななかで自己責任だけを問われる社会になってきているということです。

■ 普遍的現物給付は結果的に格差を是正する
 普通、貧しい人にお金を給付する社会は、格差の小さい社会だと思われると思います。しかし、皆がお金を貰える国と貧しい人だけにお金を給付する国を比べるデータによりますと、貧しい人にお金をあげる国のほうが、格差は大きくなっているのです。貧しい人を助けようとする人間の善意は、もしかしたら格差の原因かもしれません。

実は、貧しい人を助けるのではなくて、すべての人に給付すると貧しい人ほど所得が改善し、格差が小さくなります。理由は簡単です。年収100万円の人に100万円あげてください。100パーセントの効果がある。年収1億円の人にはたったの1パーセントしか効果がない。ですから、貧しい人たちの所得が劇的に改善するのです。皆に配れば、高所得者の租税抵抗感も低くなり効果が大きいのです。すべての人が税を払い、すべての人が受益者になる。それでも、格差は小さくできるということに気づいたのです。

■ 目指すべき相利創発社会
 家族の原理、つまり、社会は皆で助け合って生きていくものなのだ、という原理を地方自治体の地域のなかに広げ、皆で税を払いつつも、皆の「必要」を満たしていくような領域、信頼し合える仲間のような家族の領域を広げていくのです。つまり、お金で人間を区別するような領域を最小化するのです。教育を無償化したら教育扶助という生活保護がなくなります。介護を無償化したら、介護扶助という生活保護がなくなります。病院を無料にしたら、医療扶助という生活保護が要らなくなります。結局、人々の「必要」を満たしていけば、生活保護の領域は最小化されていきます。人々が助けられているという屈辱的な思いをするような領域は、最小化したほうがいいと思っています。そのためには、人々の「必要」を満たすことが大事です。社会全体で贈与の関係をつくり、困った人を助ける再分配ではなく、皆が受益者になっていくなかで、結果的に再分配が起きるという新しい財政のモデルをつくりだしていくのです。

 自己責任社会にもう終わりを告げて、そうではない、相利、つまりお互いが利益になる、私も助かるし、あなたも助かるという関係のなかで共に生きていくという相利共生の社会をつくり、しかも意図しない、思いもしない形で結果的に、さまざまな問題が解決していくというような創発社会を目指していこうではないか、ということが、今日皆さんにお伝えしたいことなのです。

(文責:親鸞仏教センター)

※井手氏の問題提起と質疑は、『現代と親鸞』第35号(2017年6月1日号)に掲載予定です。


井手 英策(いで えいさく)氏
慶應義塾大学経済学部教授
 1972年生まれ。東京大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。東北学院大学助手、横浜国立大学助教授を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。
 著書に、『高橋財政の研究―昭和恐慌からの脱出と財政再建への苦闘』(有斐閣、2006年)、『財政赤字の淵源―寛容な社会の条件を考える』(有斐閣、2012年)、『日本財政 転換の指針』(岩波書店、2013年)、『経済の時代の終焉』(岩波書店、2015年)など多数。
 共著に、『分断社会を終わらせる 「だれもが受益者」という財政戦略』(筑摩書房、2016年)など多数。
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