親鸞仏教センター
お問い合わせ
 
「現代を生きる人々」と対話するために
HOME親鸞仏教センター概要アクセスサイトマップ
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内ブックレビュー
 HOME > 研究活動報告 > 英訳『教行信証』研究会
研究活動報告
英訳『教行信証』研究会
 親鸞仏教センター開設と共に開催してきた当研究会にとり、今年は一つの節目の年となった。それは本年が、鈴木大拙が亡くなってから50年目にあたることである。大拙は1966(昭和41)年に、その生涯を閉じたのだが、その思想的影響は止むことがない。そのような節目の年に、英訳『教行信証』を読めることも一つのご縁である。今回は大拙の最後の一日にも触れながら、英訳『教行信証』について考察を行いたい。
今、ここに在ること

親鸞仏教センター嘱託研究員 田村 晃徳

■ “No, nothing. Thank you”

 1966年(昭和41)年7月11日。大拙は軽井沢の出光寮に出かける準備が整っていた。夏を通じて仕事を行うためである。ところが急激な腹痛が起こる。そのため、軽井沢への出発は取り消し、聖路加病院に緊急入院となった。腸閉塞(そく)であった。そして容態は回復することなく、翌12日午前5時5分逝去した。95年の生涯であった。

 大拙の最後の言葉は何であったのか。それについては、次のように伝えられている。

臨終も間近、“Would you like something?”と尋ねる岡村美穂子さんに答えた“No, nothing. Thank you”という言葉を遺して、そしてそれとともに、大拙九十五年の生涯を私たちに遺贈して、先生は去った。 (岡村美穂子,上田閑照『大拙の風景―鈴木大拙とは誰か―』89-90頁)

 おそらく、自分の死期が近づいていることを知っていた大拙に、どのような光景が映っていたのか。それは“No, nothing”という言葉が示唆しているように、思い残すことはない、と言える人生だったのであろう。


■ 今、ここに在ること

 大拙の死生観については、次のエピソードも参考となる。あるとき、神霊学の大家が大拙の家を訪ねてきた。そこで大拙に不思議な“実話”を語る。しかし、大拙は関心を示さない。そのとき、次のような会話が交わされたという。

「鈴木先生は、死んでからどうなるのか、知りたいと思われたことはございませんか」
この質問に対して、先生はひとりごとのように、
   「それより、今、ここに在ることはどうなのかいナ……。死んでからでは、遅くはないか?」 (岡村美穂子,上田閑照『思い出の小箱から―鈴木大拙のこと―』51-52頁)

 以上のような問答はとても興味深い。死ぬことよりも、今ここに在ることの不思議を思え―これは大拙の人生観であり、仏教観でもあろう。また、それは禅の理解に基づくものであることも当然である。


■ 「日々の生活」と仏教的行

 しかし、大拙の死生観がそのようなものであるならば、英訳『教行信証』にも「生」を大切にする姿勢が見えてくるのではないだろうか。例えば、過去にも言及したように英訳『教行信証』では「真実行」や「大行」を“the true living”あるいは“the great living”とした翻訳が有名である。この単語が注目されるのは「真実行」「大行」としての「称名念仏」に“living”と「生活」の訳語を充てている点に注意がされるのであろう。しかし、このような訳語も大拙の死生観から考察されるべきかも知れない。大拙は初期の論文においても、日常的行為と仏教的行の相即を説いていたことは注意される。例えば、「禅思想史研究 第一」において「諸三昧」や「八万四千の諸波羅蜜」などの語について「吾等の考へと縁遠いと思われるかも知れぬが、これらは何れも吾等の日々の行為、行動、運為、作用を概括して数字に」しているに過ぎず、また「吾等日日の生活そのもの即ち『清浄体そのものの用だ』との知があるとき、そこに禅が成立する」(『鈴木大拙全集 第一巻』324頁)と述べている。「日々の生活」と「清浄体そのものの用」を関連づける発想は、阿弥陀の本願によるはたらきである「称名念仏」を「日々の生活」と結びつける思索に決して無縁ではないだろう。研究会では“the great living”について「願心が生活するということではないか」をはじめ、さまざまな意見が交わされた。

 先述のように、大拙には「死んでからでは、遅くはないか?」という思いがあった。仏教とは、日々の生活を送るわれわれの現在に届く教えであることをあらためて知る。英訳『教行信証』研究会を通じ私たちも「今ここで」親鸞や大拙の教えを感じることができるのである。
Backnember ページトップへ
公開講座 親鸞思想の解明 現代と親鸞の研究英訳『教行信証』研究会
清沢満之研究会 聖典の試訳『尊号真像銘文』研究会 「『教行信証』と善導」研究会
『西方指南抄』研究会親鸞仏教センター研究交流サロン インタビュー
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内バックナンバー一覧
親鸞仏教センター
MAP
親鸞仏教センターfacebook

親鸞仏教センター [真宗大谷派]<br>〒113-0034 東京都文京区湯島2-19-11
TEL 03-3814-4900 
FAX 03-3814-4901 
mail:shinran@higashihonganji.or.jp
 
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます
Copyright©The Center for Shin Buddhist Studies. All rights reserved.
ホーム 親鸞仏教センター概要 講座のご案内 スタッフ紹介 バックナンバー一覧 リンク サイトマップ アクセス