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研究活動報告
英訳『教行信証』研究会
 英訳『教行信証』研究会では、発足以来、鈴木大拙訳『教行信証』の冒頭からの読解を行い、現在は「行巻」の途中まで読み進めている。 また、2007年4月からは「行巻」の読解を一時中断し、「正信念仏偈」を取り上げて、「難中之難無過斯」までの大拙訳からの試訳を終えたことである。また、定例の研究会に加え、2007年6月22日には、ニューヨーク州立大学アルバニ校准教授のマーク・L・ブラム(Mark L. Blum)氏をお招きし、講義をいただいた。今号では、ブラム氏も講義のなかで取り上げた「正信念仏偈」の下記の句について、氏の見解も交えながら、試訳と訳注の一部を報告する。
鈴木大拙訳「正信念仏偈」について

大谷大学非常勤講師 羽塚 高照
略号:
『聖典』:『真宗聖典』東本願寺出版部、1978年
BDK: Kyogyoshinsho: On Teaching, Practice, Faith, and Enlightenment. Hisao Inagaki (tr.), BDK English Tripitaka 105-I, Numata Center for Buddhist Translation and Research, 2003

CWS: The Collected Works of Shinran, Volume I: The Writings. Dennis Hirota et al. (tr.), Jodo Shinshu Hongwanji-ha, 1997

DTS: The Kyogyoshinsho: The Collection of Passages Expounding the True Teaching, Living, Faith, and Realizing of the Pure Land. Daisetz Teitaro Suzuki (tr.), Shinshu Otaniha, 1973


原文(『聖典』p. 204):  1.本願の名号は正定(しょうじょう)の業(ごう)なり。
 2.至心(ししん)信楽(しんぎょう)の願を因とす。
 3.等覚(とうがく)を成なり、大涅槃を証することは、
 4.必至滅度(ひっしめつど)の願成就なり。

DTS (p. 76):
 The Name symbolized in the Original Prayer is the right practice which rightly assures [one to be born in the Pure Land].
 The Prayer of sincerity and faith is its efficient cause.
 That Enlightenment is attained, that great Nirvana is realized ―
 This is due to the fulfillment of the Prayer which assures the devotee of his deliverance. 

試訳:
 1.「本願」がかたちなきものをかたちをとおして表わしている「御名(みな)」こそ、まさに、[浄土に生まれることを]保証してくれる正しい行いである。
 2.真実と信心とを誓っている「願」は、その直接の因である。
 3.「さとり」が獲得されること、大いなる「涅槃」が現実のものとなること―
 4.これは、ひとえに、念仏の行者の救いをまちがいなく保証する「願」の成就によるのである。

試訳をとおして見えてきた問題:
1. 「本願の名号」の DTS を直訳すれば、「本願において象徴化される御名」。上記の他、「本願から立ちあらわれてくる御名」などの訳が研究会において検討された。
2. 比較のため、BDK と CWS を挙げる。
BDK (p. 76):
 The vow of sincere mind and joyful faith provides the cause of our birth;
CWS (p. 69):
 The Vow of entrusting with sincere mind is the cause of birth;
 DTS では、「信」「信心」「信楽」は、ともに faith で訳されることが最も多いが、「信心」は“believing mind”、「信楽」は“faith and joy" と訳されることもある。
 翻訳ということには、原意との間の必然的なズレが生じることとなるが、宗教的言語を翻訳する際には、その問題が顕著になる。親鸞思想におけるこの問題は、その中心概念の一つである「信」あるいは「信心」はいかにして翻訳可能か、という具体的な課題を中心にして議論されてきた。特に、CWS が「信心」をローマ字音写の shinjin のままにしておくという方法をとったことが、賛否を含む盛んな議論を呼んだ。この問題は、当研究会が行った外部講師招聘研究会でも必ず話題となった。詳しくは、各研究会報告を参照のこと(坂東性純氏『現代と親鸞』第7号、安冨信哉氏同第10号、ヒロタ・デニス氏同第12号、佐藤 平 顕明氏同第15号、マーク・L・ブラム氏第16号を予定)。
 BDK と CWS は、「因」を原文にはない birth を補って訳している。DTS はそうしていない。この点についてブラム氏は、「DTS は、因に対する果が何なのか特定されていないため、より神秘的な意味合いを生んで、宗教的な関心をひく」という。BDK と CWS では、原文にはない「往生の」因に限定してしまっている。これは重要な点だとブラム氏は指摘する。親鸞はここで「往生」をゴールとしているわけではないからである。DTS は、「往生」「等覚」「大涅槃」を融合する親鸞の教義をよく伝えるという点で、非常に成功しているとブラム氏は言う(引用者による要約)。
3. 原文「等覚」を、大拙訳は“Enlightenment" とする。厳密に言えば、この「等覚」は、『尊号真像銘文』(『聖典』p. 531)で自釈されているように、「正定聚のくらい」あるいは「弥勒のくらいとひとし」のことを意味するが、大拙訳はこの意味を出さない。
4. 「願」「誓願」「弘ぐ誓ぜい」を prayer と訳すことは、大拙訳の特徴の一つとして注目されてきた。大拙は、『教行信証』の翻訳以前は「願」の訳語に vow を用いており、『教行信証』の英訳において初めて prayer を用いたと思われる。prayer は、キリスト教的な背景を強くもつ言葉であるが、英訳『教行信証』の「序文」として準備され未完のままとなった Daisetz Suzuki. "A Preface to the Kyogyoshinsho (unfinished)," The Eastern Buddhist. New Series #6-1, 1973 には、「願の訳語には、従来用いられてきた vow よりも、キリスト教的なおもむき(flavour)があるが、prayer のほうがよい(better)と考えるようになった。ただし、その prayer は決して特定の結果(result)、報酬(reward)、補償(compensation)を期待するような恩寵的な意味ではない。阿弥陀の願はその存在に秘められた根源から発するはたらきであり、絶対に自由であって、遊戯的(vikridita; sportive)である」(pp. 14-16 引用者による要約)という言及がある。
 ブラム氏は、大拙の「願」の訳語としての prayer について、以下のように述べている。
 「日本語で『祈り』『祈祷』と訳される prayer は、一神教の文脈では、〈絶対者〉たる神と人間とを橋渡しするものであるが、これは人間側からのはたらきかけであって、神が人間に何かをお願いするということはありえない。ところが、鈴木訳で、仏あるいは菩薩が衆生に対して prayer をかけていると表現されるということは、仏あるいは菩薩は〈絶対者〉ではない、という理解がそこにあるはずである。大拙師の理解では、人間と仏あるいは菩薩とが、非常に近い地平に立っている。そして、菩薩の prayer に、人間は感応しなくてはならないという関係が成り立つことになる」(引用者による要約)。
マーク・L・ブラム(Mark L. Blum) ニューヨーク州立大学アルバニ校東洋学科准教授
1950年、米国ロサンゼルスに生まれる。カリフォルニア大学バークレー大学院博士課程仏教学科修了。文学博士。東京大学仏教学研究員、大谷大学真宗総合研究所嘱託研究員、親鸞仏教センター客員研究員。研究課題は、仏教思想・文化の変遷。また、日本の浄土教、中世日本の仏教。仏教の倫理に関する現代性への応答など。
著書に、『The Origins and Development of Pure Land Buddhism: A Study and Translation of Gyonen's Jodo Homon Genrusho』(OXFORD UNIVERSITY PRESS 2002)。論文に「Truth in Need: Kiyozawa Manshi and Seren kierkegaard」(『THE EASTERN BUDDHIST』NEW SERIES Vol. 35 Nos. 1 & 2 2003)など多数。
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