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研究活動報告
『教行信証』真仏土・化身土巻研究会
 2013年2月27日、東京ガーデンパレス(文京区)において、大谷大学准教授である三木彰円氏をお招きし、「『教行信証』の諸問題─親鸞自筆・坂東本を通して」というテーマで、『教行信証』真仏土・化身土巻研究会を開催した。三木氏は、唯一現存する親鸞自筆『教行信証』である「坂東本」の修復事業に携わられ、そこで得られた知見や成果の内容を、『真宗』誌等、各地で広く公表されている。このたび、新たに翻刻(ほんこく)本『教行信証』を出版された経緯を受けて、われわれが坂東本を通して、『教行信証』を学んでいくことの意味についてお話いただいた。ここにその研究会の一部を紹介する。
『教行信証』の諸問題─親鸞自筆・坂東本を通して─

元親鸞仏教センター研究員 花園 一実

■ 坂東本の基本的性格
  周知のとおり、宗祖親鸞聖人750回御遠忌の記念事業として坂東本の御修復が行われました。これは原本にかなり傷みが生じてきたということと、そしてやはり親鸞聖人の直筆本として唯一のものですから、それをしっかりしたかたちで後々の人に見ていただく必要があったわけです。このような背景のもと、カラー原寸の影印本が作成され、また二部だけですが、原本に限りなく近い複製本も作られました。そしてこのたび、朱書きを含め原本に忠実な活字化を行った翻刻本が発売されるに至ったわけです。これには付録として、親鸞聖人の記された文字の一覧や、合点(がってん)と呼ばれる線引きの箇所なども併せて収録されています。このように、坂東本を通して『教行信証』を読むことができる環境が徐々に整ってきたわけでありますが、そこで改めて坂東本とは何であるのか、『教行信証』がどういう性格の書物であるのかということを確かめていきたいと思います。
 まず一つは、坂東本には親鸞聖人の60歳前後から最晩年に至るまでの筆跡が確認されるということです。細かく言えば、だいたい基本的な部分は58歳から62歳の間に記され、それが84歳ごろに、また大幅に書き直されていったと見られます。また筆勢などを見ていきますと、親鸞聖人の書かれた88歳のお手紙や書物などと重ねて見ることができる箇所もあります。つまり、60歳ごろから入滅される直前まで、約30年間にわたって、親鸞自身による本文や訓点の加筆推敲(すいこう)が継続されているということです。そして、それは文章だけでなく、典籍の形態にも及びます。冊子の綴じを開き、形を改めるなどの作業が行われているのです。例えば、「化身土巻」などは二冊に分かれておりますが、これは当初一冊であったということが判明しております。このように親鸞が60歳ごろから最晩年に至るまでの、自筆本であり、所持本であったということが、まず坂東本の基本的な性格としてうかがえるのです。

■ 坂東本に学ぶということ

 また、坂東本はこれまで草稿本(下書き)として見られることが多かったのですが、しかし実は60歳頃に一度、親鸞によって清書されていたということがうかがえるのです。通常、私たちが漢文を写す際は、まず一文ずつ漢字を書き、それに送り仮名を付け、返り点を付けていくという手順を考えます。しかし、坂東本が記されていく経緯を考えますと、その手順はどうも考えにくいのです。さまざまな状況から見て、まず最初に本文はいったんすべて白文で記されていたものと考えられます。ある一つのまとまったかたちができていた状態を、清書するかたちで漢文が記され、それに対して訓点が記入されていき、また、それを踏まえて本文が加えられ、あるいは削られていく。それに伴ってまた訓点も改められているのです。そういう意味で、これは書誌学の区分で言いますと、いわゆる中清書本というものに該当するのです。清書されたものに、一部またさらに清書として重ねられていく。こういうかたちで書き改め続けられていったものが坂東本なのです。
 この白文だけが抜き出され並べられている状態を、要文が類聚(るいしゅう)された状態と呼びます。真宗の伝統では高倉学寮以来、御自釈と要文の言葉を分け、御自釈を中心に学んでいく傾向がありますが、「真宗の詮(せん)を鈔し、浄土の要を(ひろ)う」(『真宗聖典』400頁)と言われるように、浄土真宗を顕(あきら)かにする要となる三経七祖や経論釈の言葉を抜き出し、要文として配置していくというところに親鸞の大切な聞思があるのです。この親鸞が聞思されたものを、私たちは親鸞の御自釈を指南としながら、またさらに聞思していく。『教行信証』を読むにあたっては、このような姿勢が必要になってくるのではないでしょうか。そしてまた、親鸞がこの白文として抜き出された要文を、今度はいかに訓読していくかという点に大変な労力と時間が費やされていたことが想像できます。それはつまり、すでに漢文としてある文章の内容をしっかりと把握し、それを和語として再び表現しなおしていくという営為でもあるのです。例えば、本願成就文における「至心回向」のように、もともとの漢文においては主語が明記されていない文章を、「至心に回向したまえり」と読むことで主客関係を明確化し、さらに尊敬語を使うことで、それが如来を主語とするものであることを表現されています。『教行信証』という書物が、大部分は引文によって構成されておりながら、なおかつそれが親鸞独自の思想であるということは、この訓読に負うところが非常に大きいのです。

■ 翻刻本出版の意義

 今回、御遠忌事業として、この影印本の復刻・翻刻と同時に、教学研究所からは現代語訳を、親鸞仏教センターからは鈴木大拙の英訳『教行信証』を再度出版していただきました。そして現在は、英訳されたものをさらに現代語訳するということにも取り組んでおられます。これらの取り組みは、親鸞聖人におけるこの訓読の作業とよく似ているのではないでしょうか。なぜなら、これらの取り組みの過程において、教えの内容を確認する言葉の吟味が当然なされているわけでありますし、それを再び表現しようとするところに、教えを再確認していくということがあるわけです。ある意味で『教行信証』とは、これまで読まれてきたものを、親鸞自身が新たに読み直し、自らの時代の現実のなかで確かめられていった、親鸞による現代語訳化の作業と言ってよいのではないかと思います。そしてこのたび、翻刻本が出版されたということは、今度は私たちがいつでも現代語訳を新たに作っていきながら、教えを確かめていくということができる、そういう環境がいよいよ整ったということなのだろうと思います。

※三木彰円氏の講義と質疑は、『現代と親鸞』第27号(2013年12月1日号)に掲載予定です。





三木彰円(みき あきまる) 大谷大学准教授
1965年宮崎県生まれ。大谷大学大学院文学研究科博士後期課程(真宗学)単位取得退学。文学修士。
論文に、「難治の機─課題的存在としての人間」(『大谷大学大学院研究紀要』9)、「本願と信知」(大谷大学真宗学会『親鸞教学』63)、「真宗興隆の大祖」(『真宗教学』69)、「親鸞における教学の視座(上・下)」(『親鸞教学』76・77)、「無窮の志願─「坂東本」修復・復刻事業を通して─」(『親鸞教学』87)、「親鸞における愚禿釈の名乗りと無戒名字の比丘」(『日本仏教学会年報』74)、「親鸞における『教行信証』の課題」(『親鸞教学』98)など。 共著に『ブッダと親鸞』(東本願寺出版部)。 また、2007年8月から2009年6月まで、真宗大谷派機関紙『真宗』に「『坂東本・教行信証』と親鸞」をテーマに連載。

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