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研究活動報告
親鸞仏教センター研究交流サロン
 第19回「親鸞仏教センター研究交流サロン」報告

  2018年6月1日、第19回親鸞仏教センター研究交流サロンを開催した。今回は、オリオン・クラウタウ氏をお迎えし、「宗教」という言葉をキーワードに、西洋からさまざまな概念が導入された近代日本において「宗教」や「仏教」が言葉としていかに語られ、いかに定着していったのかという様相について発題していただいた。
 また、コメンテーターには、大平浩史氏をお迎えし、日本とは異なった背景をもつ近代中国仏教史の視座からコメントをいただいた。当日、会場では、日中両国の近代における仏教の展開について、さまざまな観点からの議論が交わされた。ここにその一部を報告する。 (親鸞仏教センター研究員 戸次 顕彰)
「宗教」概念を考える
―近代日本における「宗教」としての仏教の生成―

発題者 オリオン・クラウタウ 氏
東北大学大学院国際文化研究科准教授

■ 日本における「宗教」
 文化庁の『宗教年鑑』によれば、日本の諸宗教団体の信者数は、日本の総人口を大きく上回るという不思議な結果となっている。一方で、ある大学の調査や新聞の世論調査などによると、何か宗教を信じているかという問いに対して、信じていると答える人は3割に満たないというデータもある。だからといって、日本人は決して無宗教ではないということは、これまでもさまざまな研究者によって指摘されてきたことである。しかし、こうした分析やそれに基づく議論のみでは、日本人の宗教意識における矛盾の解明には至らない。そこで今回は「宗教」という言葉の歴史に着目するという方法で、この問題を考えてみたい。
 我々が今日用いる言葉の中には、社会(society)・個人(individual)・自由(liberty)のように、明治期に翻訳語として定着したものが多くあり、宗教(religion)もその一つである。ただしここには、さまざまなプロセスを経て定着するに至ったという背景がある。慶応年間から明治6年ころまでのさまざまな文献を調査すると、「宗旨」「宗門」「教法」などさまざまな言葉が見られる。また、当時の政治状況としては、明治新政府が成立し、天皇制国家に向かう中で神仏分離が行われた。こうした時期には、「神道非宗教論」が起こるなど、神道や天皇制との関係の中で、宗教概念や仏教の位置づけが議論されていた。
 またこのころ、福沢諭吉は明六社を創立し、『明六雑誌』を刊行する。この雑誌の中で、religionに言及されることがあり、特に第6号で森有礼がこれを「宗教」と訳している。このころから、「宗教」という語は日本国内における統一の訳語として、知識人たちに用いられるようになっていった。また、当時の特徴としては、「政」との関係において、「政」に対して個人の領域に関わるものとして「宗教」が語られているという面が見られる。つまり、「宗教」は他の概念との関係性の中で定着した言葉であったという点が重要である。
 一方、アカデミズムの場においても、「religion」の意味内容および役割をめぐる論争が見られる。まず、東京(帝国)大学に着任した原坦山は、仏教を学問、耶蘇(やそ)教を教法として区別し、仏教を「宗教」と呼ぶことは妥当ではなく、「心性哲学」と称すべきであるという立場をとった。ここにはキリスト教との対峙(たいじ)の中で、両者を区別しようとする意図が見られる。続いて村上専精は「仏教は哲学にして又宗教なり」と主張する。以上のような動向は、「政治」「哲学」「科学」など、他の近代的な概念との関係において「宗教」や「仏教」を位置づけようとした過程であり、「宗教」という概念は、こうした過程の中で定着されてきたものであったといえる。そして「宗教」をめぐるこうした議論は、語り手の必要に応じて再定義されているという点が重要であり、このような意味においてこの作業は現在も進行中なのである。

■ 「宗教」としての「仏教」
 ヨーロッパでは、国民国家が建設されていく時代の中で、徐々に「仏教」が認識されていき、「宗教」という枠組みの中での位置づけが議論されていく。特に18世紀から19世紀にかけて、仏教学という学問が成立していく中で、一つの「宗教」として仏教が語られていく。そのような過程では、本来の仏教の堕落形態として大乗仏教が位置づけられるなどの特徴も見られる。このころ、南条文雄と笠原研寿が渡英して、欧州の東洋学の成果が日本へ伝わっている。これによって日本の仏教学が発展したことは言うまでもないが、逆に欧州の東洋学そのものも大きな変化を遂げたことはあまり知られていない重要なことである。
 ところで、欧州の仏教研究がパーリ語やサンスクリットを中心として歴史的ブッダに焦点を当て、「大乗」をその堕落形態としてとらえていたとすると、大乗が中心となる日本の仏教は、どのようにそれを受容したのかという問題がある。そこで村上専精に注目してみたい。東京大学で「印度哲学」の講座を担当した村上は、『仏教一貫論』の中で「各経諸論諸宗派の仏教総部を一貫する要件」を示すなど、仏教の統一を論じることを大きな課題としていた。また、1901年の『仏教統一論・大綱論』では「大乗非仏説」を唱え、大谷派から僧籍を脱する状況にも至る。村上は「小乗を仮りに原始的根本仏教とすれば、大乗は開発的仏教」であると主張して、「仏説」と「仏意」とに分けて、大乗を信仰の次元において正当化し、「仏意」として「開発的仏教」であると位置づけた。同様に吉谷覚寿も、歴史的ブッダは「大乗教」を述べていない可能性も考えられるが、社会的な次元において「大乗教」は「真正の仏説」であると主張した。
 以上のように、近代日本において「仏教」は、科学的・合理的な「宗教」として再構築されてきた。それは、前近代にはそれほど一般的ではなかった「仏教」という言葉自体が、このプロセスを通じて定着していったということである。こうした長いプロセスを経て近代仏教が形成されてきたといえる。つまり、儀礼や呪術(じゅじゅつ)を否定し、もともとの仏教やブッダそのものに回帰することを強調し、平等性、普遍性、個人性を重視する仏教の在り方が定着していった。そして、そうでないものが近代の枠組みで、「封建的」や「本当の仏教ではない」対象として批判されていくことがしばしば見られるということになったのである。この点は近代仏教研究の一つの大きな問題でもある。

  当日、会場では、クラウタウ氏の発題後、大平浩史氏よりコメントをいただき、その後、フロアからの質疑応答・意見交換が行われた。特に大平氏からは、同じ近代化の動きの中にありながら、異なる様相を呈した中国仏教の視点から、議論の先鞭(せんべん)となるコメントをいただいた。中でも、日本では「宗教」「仏教」の再構築が、宗門関係者・僧侶の間からなされたことに対して、中国では在家者からなされるという違いが見られることが指摘された。また、キリスト教の進出が社会秩序問題と大きく関わっているという中国の特徴的事例を紹介しつつ、日中両国の類似点と相違点を問題提起していただくなど、有意義な研究交流サロンとなった。

(文責:親鸞仏教センター)

※クラウタウ氏の問題提起・大平氏のコメントと質疑は、『現代と親鸞』第41号(2019年12月1 日発行予定)に掲載予定です。

オリオン・クラウタウ氏
東北大学大学院国際文化研究科准教授
 1980年、ブラジル生まれ。サンパウロ大学(USP)歴史学科卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。日本学術振興会外国人特別研究員、龍谷大学アジア仏教文化研究センター博士研究員を経て、現在、東北大学大学院国際文化研究科准教授。専門は宗教史学(近代日本仏教)。
 主な著書・論文に『近代日本思想としての仏教史学』(法蔵館、2012年)、『戦後歴史学と日本仏教』(共編著)、「宗教概念と日本」(島薗進・他編『神・儒・仏の時代―シリーズ日本人と宗教 第2巻』春秋社、2014年)、「近代日本の仏教学における“仏教 Buddhism”の語り方」(末木文美士・他編『ブッダの変貌―交錯する近代仏教―』法蔵館、2014年)など多数。
大平 浩史 (おおひら こうし)氏
立命館大学非常勤講師/興隆学林専門学校専任講師
 1973年、香川県生まれ。立命館大学文学部史学科東洋史学専攻卒業、同大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。興隆学林専門学校宗学科卒業、同宗学研究科卒業。現在、立命館大学非常勤講師、興隆学林専門学校専任講師。専門は中国近代仏教史。
 主な論文等に、「南京国民政府成立期における仏教界と廟産興学運動―新旧両派による「真の仏教徒」論を中心として―」(『仏教史学研究』第54巻第1号、2011年)、「日本統治期台湾における江善慧と太虚の邂逅―霊泉寺大法会を中心として」(『アジア遊学222 台湾の日本仏教―布教・交流・近代化―』勉誠出版、2018年)など多数。
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