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研究活動報告
「『教行信証』と善導」研究会
 2018年11月30日、「『教行信証』と善導」研究会と「聖典の試訳『尊号真像銘文』」研究会は、東京女子大学名誉教授の金子彰氏をお招きし、合同研究会を開催した。
 親鸞と現代との間には、およそ800年もの時間の隔たりがあり、その間には日本語そのものが大きく変化している。そのため『教行信証』の思想研究や、『尊号真像銘文』の現代語化に際しても、国語学的な研究の成果を、十分に踏まえる必要があると思われる。そこで親鸞の著作を扱う二つの研究会が共同して、この分野に造詣の深い金子氏から問題提起をいただいた。ここに、その一端を報告する。 (親鸞仏教センター研究員〔当時〕 青柳 英司)
鎌倉仏家の注釈活動
   ――親鸞遺文を通して――


東京女子大学名誉教授
金子 彰 氏

■ 書き入れ注
 親鸞の著作に対する分析の入り口には、さまざまな方向があります。私は、親鸞は注釈の人だと思います。上段に隙間があれば注を付け、文章の左右にも注を付ける。親鸞は熱心な教育者だったのだと思います。そして、この注釈を通して、鎌倉時代のいろいろな言語の実態と秘密があらわになってくるのです。

 親鸞の著作には語のレベルから文のレベルまで、多岐にわたる注が見られます。まず「経証」に付された「キヤウシヤウ」(『西方指南鈔』)や、「古郷」に付された「フルキサト」(西本願寺本『唯信抄』)、それから反切(はんせつ)や訓点といった「語の訓(よ)み方の注」があります。当時は訓読の仕方から、その人の学問背景がわかりました。例えば『源氏物語』の中で、薫大将(かおるだいしょう)が朗々と『白氏文集(はくしもんじゅう)』を読む場面があります。その漢文の読み方は、完全に菅原家流の訓読法です。紫式部は父の菅原家流の訓読法を受け継いでいたことが、ここからわかるのです。親鸞が生まれた日野家にも、日野家流の漢文訓読法というものがあります。親鸞の訓読法は、日野家流なのでしょうか。それとも以後の比叡山で修学した訓読法なのでしょうか。これは、今はよくわかりません。解明したい問題の一つです。

 次に「黒闇」に施された「クラキヤミノヨニタトフル」(『唯信抄文意』正月十一日本)のような、「語釈の注」があります。これは親鸞の注釈の大部分を占めるもので、しかもほとんどブレがありません。同一被注釈語に対しては、著作が異なっても、ほぼ同じ左注が見られます。親鸞の左注は、その都度任意に施したものではなく、何か明確な根拠があったものと判断されます。

 それから親鸞の著作には、「補助符合による注」も多く見られます。これには、アクセント記号である「声調」、漢文を読み下すための「返点」、文を区切る「句切点」、まだはっきりとした意味がわからない「合点」があります。親鸞の「返点」は院政期の打ち方で、比較的古い形式だと言えます。
 一方「句切点」は、和文と漢文とで位置が異なっており、和文の「句切点」は昭和の文法学者・橋本進吉が示した、いわゆる文節の位置と多くが一致します。つまり親鸞は、現代の文法学で言うところの、文節や連文節の認識を把握していたことが窺(うかが)われるのです。さらに親鸞の時代には、まだ文節に句読点を打つということが行われていませんでした。管見の限り親鸞の著作は、「句切点」を文節の単位で振った、最も早い例になるのではないかと思います。ここからは親鸞の言語学者的な一面が見られます。
■ 親鸞の表記法
 親鸞の和文の著作を分析してみますと、「大涅槃」や「無明」のような漢語は漢字で、「ひかり」や「こころ」のような和語は仮名で、という綺麗な書き分けが見られます。これに外れる例は、ほんのわずかしかありません。ですが師の法然直筆の書状には、このような書き分けは見られません。親鸞の表記法の特徴だと見られます。

 また親鸞には、独自の仮名遣いがあります。平安時代の紫式部のころには、「お」は「オ」、「を」は「ウォ」と発音されていました。ですが親鸞の時代には、このような発音の差異が無くなります。そのなかで同時代の藤原定家は、新しい仮名遣いを考案していきました。同様に親鸞も、独自の仮名遣いを作って実践しています。定家はアクセントの高低から、「オ」 と「ヲ」の書き分けを行っていきますが、親鸞はすべて「オ」に統一してしまうのです。自立語の語頭はすべて「オ」で統一しますし、複合助詞の「ヲバ」「ヲモ」「ヲヤ」なども全部「オバ」「オモ」「オヤ」に統一します。これは恵信尼の文献も、同じような傾向になっています。ただ後世の覚如や蓮如の文献には、親鸞のような表記法は見られません。

 また、親鸞は聖覚の『唯信鈔』を何度も書写していますが、私は親鸞が聖覚の表記を書き換えていると考えています。『唯信鈔』は信瑞の『明義進行集』にも引用されていますが、これと親鸞が書写した『唯信鈔』を比較すると、表記法が大幅にちがいます。親鸞の写した『唯信鈔』は、すべて親鸞の表記法になっているのですが、『明義進行集』のほうはそうなっていません。

■ 親鸞の表現技法の特色
 明治時代に日本語の表現技法を研究した、五十嵐力という人がいます。五十嵐氏は文章のレトリックを、「表」の原理と「裏」の原理とに分けています。「表」は意味内容をはっきりと示し、読者が理解し易い表現技法であり、「裏」は意表を突く言い方や逆説、遠回しにぼかした言い方などを指します。そして親鸞の注釈書は、多く「表」の原理で書かれているのです。
 これに対して『歎異抄』は「裏」の原理、逆説ばかりで成り立っています。最初に人が驚くようなことを言って、あとからその理由を説明するという論法を採るのです。

 親鸞は明らかに相手によって、文章の書き方を変えています。また弟子からの手紙を、添削して返すという例も見られます。このような点からは、親鸞の教育者としての側面が垣間見られると思います。

(文責:親鸞仏教センター)




※金子氏の問題提起と質疑は、『現代と親鸞』第42号(2020年6 月1 日発行予定)に掲載予定です。

金子 彰(かねこ あきら)氏
東京女子大学名誉教授
 広島大学大学院博士課程単位取得退学。新潟大学教育学部講師、同助教授、兵庫教育大学学校教育学部助教授、東京女子大学文理学部教授、東京女子大学現代教育学部教授などを歴任。
 共著に、『明恵上人資料第二』(1978年、東京大学出版会)、『高山寺古訓点資料第一』(1980年、東京大学出版会)など多数。
 論文に、「恵信尼文書の用語」(『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』28号、2009年、大谷大学)などがある。
 なお、『アンジャリ』第33号(2017年6 月号)に、論考「一途に書く、繰り返して書く――ことばを紡いだ人達――」をご執筆いただいている。
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