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研究活動報告
近現代『教行信証』研究検証プロジェクト
 「親鸞聖人の根本著作の現代的解釈への展望を試みる」ことを使命(ミッション)とする「近現代『教行信証』研究検証プロジェクト」では、2019年1 月19日、親鸞仏教センターを会場に龍谷大学教授の杉岡孝紀氏を招聘して研究会を開催した。氏は、単著『親鸞の解釈と方法』(法藏館、2011年)において、真宗学の方法論を追究される中で、「解釈学」の援用による「創造的解釈」の可能性を提言されている。このたびの研究会では、同書の視座に基づき「真宗学の〈解釈と方法〉をめぐる課題」というテーマのもとご講義いただいた。ここにその一端を報告する。 (真宗大谷派教学研究所研究員 名和 達宣)

真宗学の〈解釈と方法〉をめぐる課題

龍谷大学農学部教授
杉岡 孝紀 氏
■ 真宗学は「新 - 宗学」なのか
 1922年、大学令により仏教大学は龍谷大学に昇格改称され、これに伴い「宗学」「宗乗」に代わって新たに「真宗学」の名称が誕生しました。この名称変更は、心ある学者に学問論・方法論をめぐる議論を喚起せしめ、真宗学の学問的性格に自己変革を促す契機となりました。すなわち教権からの独立を求め、真宗学を一般諸学と比肩し得る普遍的な真理探究の学に構築することを目指す自由研究派(大学人)と、宗門立大学内の真宗学はどこまでも教権に制限されるべきだとする教権派(宗門側)との間の論争を生むことになりました。

 私の恩師である岡亮二は、一貫して江戸宗学と真宗学との学問的性格のちがいを主張しました。岡は自身の『教行信証』研究の特徴について、親鸞独自の訓(よ)み方に注意を払うとともに、一つ一つの引文を独立させて読むのではなく、各文に有機的な関連を見、流れにそって諸引文の引意を窺(うかが)った点にあると述べています。岡に従えば、それ自体が独自の時間と思想の流れをもって体系的に撰述されている『教行信証』の文章は、いずれも必ずそれ以前の文章を受けて記述されているのであって、その思想的流れを無視してはなりません。さらに岡は、原典と異なる親鸞独自の訓み方が施されている引用文は、どこまでも文字を文字の如く読み進めることが重要であるとします。

 こうした理解に対しては、本願寺派の江戸教学で言われる「文によって義を立て、義によって文をさばく」に立脚した見地より、「親鸞教義の根幹を理解するためには、まず『教行信証』全体の内容を踏まえる必要があるのではないか」との疑問が呈されています。いずれの立場も、聖教の文字を正しく読むことの大切さが主張されているという点では一致していますが、結局は共に全体が先か部分が先か、というウロボロスの環に陥らざるを得ないのではないでしょうか。
■ 真宗学の方法論をめぐって
 本願寺派の教学では、ポスト・モダンの思潮に伴い、80年代半ばから「現場なき教学」への反省の声が高まり、その流れの中で近代教学さらには現代教学への批判が起こりました。しかし本願寺派の場合、はたして大谷派のように近代教学を構築し得たのか、ということ自体が問われなければなりません。その意味で私たちが問題とすべきは、ポスト・モダン思潮に対して真宗学は、その思想を真正面から議論することが無かったという点にこそあります。

 現代教学の樹立に一生を捧げた信楽峻麿は、真宗学の学問的性格として「客観的解明」(科学性)と「主体的領解」(求道性)の二側面があることを指摘し、両者の矛盾した研究方法の「統合」にこそ真宗学の方法論があると主張しました。この「統合」の重要性は、東西両派の多くの先哲諸師によって繰り返し確認されてきた事柄でもありますが、それにもかかわらず、真宗学をめぐる状況は必ずしもそのことを具現化できておらず、「非学問的(信仰的)・護教的研究」と「科学的・実証的研究」という両極化の固定化に陥っています。
 こうしたなかで、私たちは研究者個人の学びの姿勢に「統合」の在り方を求めるだけではなく、「客観的解明」と 「主体的領解」の間に位置する相互透入的な場に立った方法を追求することが必要となります。そのような問題意識をもって、私は『親鸞の解釈と方法』の中で「解釈学」に学ぶことの意義を主張したのです。
■ 真宗学の解釈学的研究
 多様な解釈学の中で私が注目したのは、現代の解釈学をめぐる潮流の原点となったH・G・ガダマーの哲学的解釈学です。ガダマーは解釈を、文献の地平を客観的に再構成することではなく、著者の地平と解釈者の理解の地平とを弁証法的に止揚(しよう)して、両者を溶融した地平(視点)の中で見直す行為として理解します。この地平融合の形成を、ガダマーは「作用史」と名づけます。我々は常にこの影響の作用史によって導かれており、そのことを自覚すべきだというのです。そのため解釈者は、真理を問いつつ、伝承との対話を通して単なる過去の客観的再現でない創造的理解の中で、過去を現在に「適用」していることになります。テクストは、それを適切に理解しようと思うならば、瞬間(時代的状況)ごとに、新たに、そして別様な仕方で理解されねばならないというのです。

 私たちは、聖教の文字を一字一句疎(おろそ)かにすることなく読解する必要があります。しかし文字の如くに理解する場合も、そこには必然的に主観の参与(主体的関与)という契機が介在することに注意しなければなりません。まったく主観の入り込まない理解は不可能であるし、また主体的関与の無い解釈は生きた解釈とはなり得ません。真宗学の学的営為は、理解を仕上げる「解釈」に帰結されます。そして、聖教の「解釈」は「理解」と「適用」を含んだ創造的行為という意味を有します。
■ おわりに
 対話は、互いに異なる者との間であるからこそ必要なのであり、親鸞が私にとって他者であるからこそ、対話は有益なのです。私たちの研究は、『教行信証』 の背景や親鸞の意図を探求することに第一義があるのではなく、現前の『教行信証』が語りかける言葉、 過去から伝承された意味内容に参与することに意義があります。したがって親鸞の言葉は、その都度、現在において理解されなければならないのであって、その意味で唯一の正しい理解は無いと言えます。正しい理解は『教行信証』の内容に属するのであり、その内容の実現こそが解釈だからです。
 このように、私たちが親鸞に学ぶことは、親鸞の解釈の方法を学ぶことでもあり、また真宗学の学的営為が創造的解釈の反復であることを自覚することでなければなりません。

(文責:親鸞仏教センター)




※杉岡氏の問題提起と質疑は、『近現代『教行信証』研究検証プロジェクト 研究紀要』第3 号(2020年3 月1日発行予定)に掲載予定です。

杉岡 孝紀(すぎおか たかのり)氏
龍谷大学農学部教授
 1965年岐阜県に生まれる。1988年に龍谷大学文学部仏教学科を卒業、1993年に龍谷大学大学院文学研究科博士後期課程を単位取得満期退学。学位は博士(文学)。龍谷大学大学院文学研究科研究室副手、文学部講師、文学部准教授などを経て、2009年に文学部教授に就任。2015年より農学部教授に就任され、現在に至る。
 専門は印度哲学、日本仏教、親鸞思想(真宗学)。歴史学・哲学・心理学など、さまざまな領域の研究成果を踏まえつつ、仏教思想の現代的な意義を探究されている。
 著書に、『心の病と宗教性−深い傾聴−』(法藏館、2008年)、『親鸞−浄土真宗の原点を知る−』(河出書房新社、2011年)、『親鸞の解釈と方法』(法藏館、2011年)など多数。
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