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「今との出会い」200回記念特別エッセイ
人生における時の厚みと深さ

本多弘之(親鸞仏教センター所長)
 現在の日本は、高齢化が進み人口が減少し始めたと言われている。そして、その高齢化社会を支える社会福祉制度が、国家予算の大幅な赤字で危機的状態だともされている。人生がただ長さのみを追求する価値観の流布によって、生命がもたらす老化現象の問題が、さまざまな角度から話題になってもいるのである。

 生命とは、生まれると同時に成長し、平衡状態に入り、そして老衰し、死に至る。この必然の生命現象には、しかしながらその過程それぞれに、生命の質の変化があると言えよう。成長過程の経験の蓄積は、濃密であってしかもその記憶は深く記録され、老化現象にも耐えて、いつも思い出されてくるのだと言われる。その反面、老化した人にとってのその時々の出来事は、すぐに忘れられてしまう。

 この文章の筆者も、いうまでもなく後期高齢者とされる老境にある。確かに若い頃に習得した語学などは、随分と一心に習ったためもあろうが、結構いまでも記憶に残っている。しかし、近年に必要があって習い始めた外国語などは、情けないことに、覚えた翌日にはもう忘れてしまっている。

 金子大榮師から聞いた言葉であったが、「人生は長さのみでなく、深く生きるということがある」というのがあった。この場合の深さは、言うまでもなく宗教的な自覚による人生の味わいを表現しようとするものであろうが、このことを、経験の構造上の深さに当てて考え直してみよう。

 生存に取っての時間には、先に述べたように、確かにその生命の状態が成長期か老年期かによって、厚みや深さが異なるのだが、生命にとっての時間の質の根底に、生きる力を支えているような作用があるのではないか。生命存在一般に、その生命力の根源の力のようなものが感じられるとき、その力を与えてくる根源の深さには、生存の深さや厚さを貫いている調整力ともいうべきものが感じられる。

 生きていることを成り立たせる力に、力強いこの調整能力があることを、あたかも外の力にその根源があるかのごとく表象的に表現してきたのが、いわば通途の宗教的な言葉の意味なのかもしれない。そうしてみると、親鸞がいう「自然のよう」とは、この根底の大きな力を言い当てる言葉だったとも言えようか。 (2020年2月)
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