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ブックレビュー(書評)
 
2009年 7月
[特別編] 国府田 隆夫 氏(物理学者・東京大学名誉教授)

暴走する脳科学―哲学・倫理学からの批判的検討』
  河野 哲也 著 [光文社新書 777円 2008年]

理に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。(夏目漱石の小説『草枕』の冒頭)
 角を憂うるのは情、流される危うさを思うのは理の働きで、その中心は心臓と脳にあると信じられてきた。それに対して近世の哲学者デカルトは、情も理も非物質的な心(魂)によるとし、その中心は脳内の小さな腺(松果腺)にあると考えた。
精神はこの腺において機能を果たしている。心臓で精神が情念を受けとるという考えはとるにたらない。(『情念論』、岩波文庫、p.32-33)
 デカルト以後、この心身二元論が近代的自我と近代科学の基礎となったが、それに違和感をもった人々もいた。ある生物学者は次のように書いている。
滅び去るべき生物体の中に滅びることを肯(がえん)じない心が生まれ、心自身がそれを知って危機が生じた。私たちはまだ心の進化の途上にある。もしかしたら心の世界をもう一つ超えた世界に入らねばならないのかも知れない。(木下清一郎『心の起源』、中公新書、p.212-213)
 だが、心に対するそのような慎重な態度は、最近の脳科学の発展の中で目立って薄れてきている。脳機能を可視化できる高度な技術が革新的に進歩し、脳科学研究が国家戦略として推進されているのが現状である(『脳研究の最前線<上・下>』、講談社ブルーバックス)。
 本書は、そのような状況に危機感を抱いた倫理哲学者が、一般社会に向けて書いた緊急アピール的な解説書で、脳科学の現状とその批判的検討が具体例に即して詳しく述べられている。心=脳という立場(心脳同一説)を斥(しりぞ)け、身体、道具、社会を含む環境との関係(拡張した心)に心の本質があると考えるのが著者の立場である。限られた紙数の新書版にしては内容が過密なところもあるが、脳科学とその応用技術には現代科学技術の無思想性が典型的に現れているという著者の指摘と、その社会的、倫理的問題性に対する警鐘には説得力がある。
 「脳科学の進歩自体を忌避する理由はない」「だがその無思想な暴走を許すわけにはいかない」「心の進化を担うのは専門家ではない、われわれ自身なのだ」という著者の思いが伝わってくる。心の不思議を考えるうえで、一読に値する新書だろう。  

(国府田 隆夫)

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