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ブックレビュー(書評)
2011年 6月
『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録―』
  岩本裕 著 [新潮文庫 438円 2006年]

 1999年9月、茨城県東海村「JCO東海事業所」において、高速実験炉「常陽」で使用するウラン燃料の加工作業中、臨界(りんかい)事故が発生。青い光「チェレンコフ光」と共に、中性子(ちゅうせいし)線が作業員の体を突き抜けた。最も近くで照射を受けた作業員の被曝(ひばく)量は20シーベルト、これは年間に人間が浴びることのできる限度とされる量のじつに二十万倍であった。本書はこの被曝患者の命を救うべく、立ち上げられた医療チームのドキュメンタリーである。
 放射線が直接的に破壊するのは肉体そのものではない。事実、目の前で被曝したこの患者は、数日間は意識もしっかりしており、外傷もほとんど見当たらなかった。青い閃光(せんこう)によって破壊されていたのは染色体(せんしょくたい)、つまり人間の命の設計図である。この設計図が破壊されたとき、人間は代謝機能を失い、肉体を維持していくことができず、ゆっくりと「朽(く)ちていく」のである。皮膚は腐って剥(は)がれ落ち、あらゆる臓器は機能を失い、日に2リットルもの体液が身体から染(し)み出してくる。そんな壮絶な状況のなか、あらゆる延命措置を試みていた医療チームは、治療を続けていくことの意義を見失い葛藤(かっとう)する。やがてなすすべもなく患者の命は尽きていく。それは抵抗の余地すらない、現代医療の圧倒的な敗北であった。
 もとより医療とは、魔法のように病を消し去るものではない。ナイチンゲールは、患者自身のもっている「生きる力」を引き出すことこそが医療の役割であると言っている。放射線の恐ろしさが、まさに人知を超えているといえるのは、私たちを生かしているこの不思議な力、生命の基盤そのものを破壊してしまうからなのであろう。朽ちていった悲惨(ひさん)な命は、映し鏡のように私に生きている不思議を思い起こさせた。

花園一実(親鸞仏教センター研究員)

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