親鸞仏教センター
お問い合わせ
 
「現代を生きる人々」と対話するために
HOME親鸞仏教センター概要アクセスサイトマップ
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内研究員一覧
 HOME > ブックレビュー(書評)
2012年12月
『名もなき毒』
  宮部みゆき 著
[文藝春秋 848円 2011年]

 「毒」という言葉を聞いて、私たちはどんな“毒物”をイメージするだろう。『広辞苑』を引いてみると、この言葉の第一の定義は、「生命または健康を害するもの。特に、そのような薬物」とある。事実、この小説では青酸カリによる無差別殺人事件を皮切りに、有害物質によるシックハウス症候群や、宅地汚染の問題が複雑に交差する。しかし、本書の主題である「名もなき毒」とは、こうした具体的な毒物を指すのではなく、われわれ自身の心から産み出される「悪意」という毒、人間という毒のことなのだ。
 かつてジャングルの闇を跳梁(ちょうりょう)する獣の牙の前に、ちっぽけな人間は無力だった。だがあるとき、その獣が捕らえられ、ライオンという名が与えられたときから、人間はそれを退治する術を編み出した。名付けられたことで、姿なき恐怖には形ができた。形あるものなら、捕らえることも、滅することもできる。
 私は、我々の内にある毒の名前を知りたい。誰か私に教えてほしい。我々が内包する毒の名は何というのだ。(554頁)
 本当の“毒”、私たちの日常を通して、私たち自身の内から吐き出され、伝染し、止まることなく連鎖していく。耳目を引く事件にでもならなければ誰もそのことを顧みないが、その“毒”はすでに、知らぬ間に私たちを蝕(むしば)んでいるのだ。一番の問題は、その“毒”が一体何であるのか、答えようがない、ということである。
 軽快でやわらかく、わかりやすい描写で物語は進んでいくのに、その表現の奥にかいま見えるテーマは非常に重苦しい。本書は、現代を生きる私たちに対する問題提起であると同時に、だからこそ、その答えを求めて歩めという呼びかけであるように思う。

内記 洸(親鸞仏教センター研究員)

最近のブックレビュー一覧
[2014年3月]:『近代文明からの転回』 清水博 著
[2014年1月]:『池田晶子―不滅の哲学』 若松英輔 著
[2013年12月]:『人間存在と愛―やまとことばの倫理学―』 川井博義 著
[2013年10月]:『欧化と国粋 ——— 明治新世代と日本のかたち』 ケネス・B・パイル 著
[2013年8月]:『想像ラジオ』 いとうせいこう 著
Backnember ページトップへ
濁浪清風今との出会いブックレビュー
研究活動報告出版物紹介講座案内バックナンバー一覧
親鸞仏教センター
MAP
親鸞仏教センターTwitter親鸞仏教センターfacebook

親鸞仏教センター [真宗大谷派]<br>〒113-0034 東京都文京区湯島2-19-11
TEL 03-3814-4900 
FAX 03-3814-4901 
mail:shinran@higashihonganji.or.jp
 
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます
Copyright©The Center for Shin Buddhist Studies. All rights reserved.
ホーム 親鸞仏教センター概要 講座のご案内 スタッフ紹介 バックナンバー一覧 リンク サイトマップ アクセス