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ブックレビュー(書評)
2014年3月
『シモーヌ・ヴェイユの詩学』
  今村純子 著     慶應義塾大学出版会 本体2800円(税別)

 シモーヌ・ヴェイユは、1909年にフランスのパリで生まれ、わずか34年後にイギリスのアシュフォードでその生涯を閉じたユダヤ系フランス人の哲学者である。
 若くして哲学教授となるものの、その後の人生を彩るのは、「個人的な研究休暇」と称して一女工となった工場生活の経験や、スペイン市民戦争への参加など、驚異的とも言うべき行動の数々である。それゆえ、従来の評論や研究では、その生の美しさや深遠な信仰経験を扱うものが多かった。しかし、本書はどこまでもヴェイユの思想に踏み込み、その言葉を通して「存在の美」に触れていこうとする哲学書である。そして何よりも、ここにつづられる言葉自体が、ヴェイユの言葉を一篇の「詩」として美しく映し出したものに相違ない。
 本書で繰り広げられるのは、時代を超えた「対話」であり、一貫して確かめられるのは、その間に起こる「ずれ」である。それは例えば、デカルト、カント、プラトンといった、ヴェイユに影響を与えた古来の哲学者との対話、あるいは西田幾多郎や鈴木大拙といった、直接的な影響関係にない日本の思想家との対話、さらには現代の映画や現実問題といった「具体的なもの」との対話において尋ねられていく。そして、言葉と言葉との間に起こる「ずれ」や「亀裂」「閃光」を通して、そこに映し出されるものが何であるかを明かしていく。
 とりわけ目を引いたのは、「実在の剥奪/喚起」という言葉であった。実在(リアリティ)の剥奪(はくだつ)とは、不幸に陥った人が、自らの存在を語る言葉を失うことを表す。その状態では、たとえ息をしていても真に生きているとは言い得ず、自らの生に希望を見いだすことはできない。しかし、この感情そのもの――苦しみや悲しみ、痛み――をそのままの自性として、目をそらさずじっと見つめ、それに「同意する」ならば、これまで「私」と呼んでいたものから解放され、それゆえにほかでもない「私」自身として生きる地平が開かれる。ここにおいて、私たちの内より自由で活き活きとした「美の感情」(あるいは「至高の歓び」)が溢(あふ)れ出るというのだが、このような実在(リアリティ)の喚起を、ヴェイユは「詩をもつこと」と言い表す。
 私たちの生きる世界は目に見える現象(あらわれ)よりも美しく、この存在はもっと深いということを呼び起こす一冊であると、震撼させられた。

名和達宣(親鸞仏教センター研究員)

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