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ブックレビュー(書評)
2015年9月
『月に吠えらんねえ』第三巻
  清家雪子 著    [講談社 740円 2015年]

 戦にゆかずして/戦を讃へるうたをつくれり/これをもつてあやまりとすべきか/うたふべからざることをうたふ/われのあやまちなりや。/いなとよ……
(室生犀星「たたへる歌」、『餘花』〔1944〕所収)

 近代詩歌俳句漫画といわれる『月に吠えらんねえ』は、清家雪子が描く近代詩人の幻想や狂気、宿業の堆積(たいせき)する街――□(シカク)街を舞台に産み落とされる言葉の物語である。作者が冒頭に注記するように、「このお話の登場人物は、近代詩歌俳句の各作品から受けた印象をキャラクター化したもの」である。本書には、詩歌俳句が数々登場し、登場する言葉を読むだけでも読み応えがあるのだが、何といってもその魅力は、言葉が言葉として人となる世界にある。そんな『月に吠えらんねえ』の第三巻のテーマは、戦争である。
 冒頭の詩を詠(うた)った犀星(さいせい)が、戦時下の硫黄島、サイパンと旅する「遠い旅」に描かれるのは、戦争の現実と言葉の苦悩である。犀星が少女と心通わせる「なめくじのうた」など、詩の魅力が存分に発揮される一方で、戦いを讃えて戦地に赴かせた言葉を紡ぎながら、戦場ではただ死を傍観し、少女の震え一つ止められない、犀星に佇(たたず)むそんな惨めさが静ひつに描かれている。
 こうした犀星の「遠い旅」を一つの基軸にしながら、本土日本では戦争の熱に浮かれ、夢見る街が描かれる。次々と戦争を讃える詩人たちに、熱狂にうずもれていく人々。みんな愉快に「同じ顔」して踊り続けていける。悲惨な現実なんていらない、詩人に求められているのは「夢」であり、生んでほしいのはひとりの夢より、みんなの夢――鋭く現況を問いながらも、この熱狂にうずもれていく朔太郎は、犀星に次のような言葉を投げかける。

言葉は
現実を覆すことはできないけど
同じ夢はみせられるよ
 一体、言葉とは何なのだろうか。深い現実を知らせるのが言葉なのか、そもそもこの世界とは言葉の見せている夢なのか。『月に吠えらんねえ』に登場する詩歌にはやはり底知れぬ力がある。そんな数々の言葉に誘われて、現実と幻想のはざまで「言葉」に問い問われる蠱惑(こわく)的な一冊。

中村 玲太(親鸞仏教センター研究員)

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