親鸞仏教センター

親鸞仏教センター

The Center for Shin Buddhist Studies

― 「現代に生きる人々」と対話するために ―

開催趣旨

 戦前までの歴史研究が皇国史観など国家精神に関わるものにもなり得たことを、近著の歴史学研究会編(加藤陽子責任編集)『「戦前歴史学」のアリーナ』(東京大学出版会)は巧みに活写している。そして、敗戦を契機に自立的な主体として注目された「民衆」は、戦後歴史学(戦後知)において重要な位置を占めるものとなった――1946年に新たに編まれた歴史教科書『くにのあゆみ』などには、その問題意識がみえる。

 戦後の歴史学の中には、「民衆」を考えるうえで「宗教」の歴史に可能性を見出す者もみられた。例えば、「民衆の導き手」としての親鸞像を提示するものも台頭してきた(服部之總など)。また、いわゆる「東山文化」の研究は、戦前までは足利氏という「逆賊」の下に大陸文化をむやみに享受し公家文化を害するものと低く評価されたが、戦後はそれまで虐げられていた層が技芸で下剋上的に台頭した新奇の文化として、却って高く評価されることとなった(芳賀幸四郎など)。或いは、新宗教における「お筆先」などが科学研究の対象ではないといわれるなかで、その思想史的な重要性をどう見出せるかを研究しようとする動向も、「民衆」とかかわる宗教に注目した流れにあるものといえる(安丸良夫など)。とはいえ、こうした動向は、今日の歴史学で中心に位置しているとは言い難い。それはなぜなのだろうか。

 そこでこのシンポジウムでは、「民衆」からみる歴史と「宗教」からみる歴史(をみた戦後の歴史学者)に着目することで、現状の歴史教育=教科書にある「宗教」のイメージを見つめ直していければと考えている。言い換えれば、我々が前提としてしまっている歴史叙述とは異なる見方で「民衆」「宗教」を描き出そうとした歴史家たちから、戦後以来の歴史観を考えるヒントを見出したく念じている。「民衆」と「宗教」を考えてきた歴史学(者)のあゆみを再考することによって、今日、私たちが拠って立つ歴史観を見直す機会にしたい。こうした試みを通して、歴史研究と宗教研究を橋渡しする可能性が見出されれば幸いである。

登壇者のご紹介

【発表者①】
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飯島 孝良

当センター嘱託研究員
花園大学国際禅学研究所副所長  
【発表者②】
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近藤 俊太郎

本願寺史料研究所研究員
 
【発表者③】
繁田
繁田 真爾
当センター嘱託研究員
東北大学大学院国際文化研究科
GSICSフェロー  
【ディスカッサント】
加藤陽子 写真 文学部の建物前のもの
加藤 陽子

東京大学大学院
人文社会系研究科教授