登壇者からのメッセージ

kikuchi

菊池 真理子

KIKUCHI Mariko

(漫画家) 

 安倍元首相の銃撃事件をきっかけに、にわかに注目を集めた「宗教2世」の存在。それまでも、親が特定の宗教を信仰していることによって、生きづらい人生を余儀なくされた子どもは多くいたが、ほとんどは自ら口を塞ぎ、助けを求めてはこなかった。なぜなら、親の持つ「信教の自由」という権利と、自分たちの苦しみとが天秤にかけられたらどちらに傾くのか、肌感覚で知っていたからだ。宗教を語ることを避ける日本社会で、誰にも悩みを明かせないまま、自身の運の悪さを呪っていた子どもたち。そんな子どもたちが「宗教2世」の言葉を得て、自らの体験を発信し始めたのが、事件後だ。

 一体、家庭の中で何が行われていたのか。2世にとって家族とはどのような存在で、どんな困難を抱くに至ったのか。もちろん個々の宗教や家庭によって、様相は異なる。しかし共通する点も多く、まさにそこから「宗教2世問題」が浮かび上がる。2世当事者である私の思いも伝えながら 「宗教2世と家族」 について、共に考えていければと思う。

(きくち・まりこ)

wakasa

若佐 顗臣

WAKASA Gishin

(日蓮宗 實成寺 住職)

 「家族」の在り方は時代が進むにつれ少しずつ変化しているが、頑なに変化を受け入れない岩盤層によって制度と現状の乖離がどんどんと進んでいる。江戸時代から続く「檀家制度」によって護られてきた日本の仏教寺院において「家族」という単位は切っても切れないものであろう。伝統的な家族観の例外を認めてしまえば檀家制度の崩壊に拍車をかけ、自らの首を絞めると考える向きも少なくないが、それがより良い選択だとは思えない。

 題目や念仏の様式を伝えることも大切なことである。それに加え仏教思想の基にある「多様性」「平等主義」なども世に伝え示すことが、救いを求める人々にとっても、仏教寺院においても重要なのではないだろうか。今回、全国日蓮宗青年会が東京レインボープライドに参加する過程において様々な課題に直面し、少しの希望を見た。いつか解決する問題と片づけるのではなく、今、苦しんでいる人々にどれだけ寄り添えるのか考えていきたい。

(わかさ・ぎしん)

otani

大谷 由香

OTANI Yuka

(京都大学 白眉センター 特定准教授)

 紀元前5世紀頃にインドで教えを開いた釈尊は、自身も家庭生活や家業から離れて修行に専念し、弟子たちにも同様に“出家”してさとりを目指すことを求めた。彼らの出家生活は在家信者に経済的に依存することで成立する。このため出家者には当時の一般常識に付合する規律が設けられ、その第一は性交渉の禁止であった。

 翻って現代日本仏教では、僧侶が妻帯し、長男に寺院を継承させることが一般に行われている。これは明治5(1872)年4月の「僧侶の肉食妻帯勝手たるべし」の太政官符公布以来に顕著となったが、実際には奈良時代にはすでに僧侶の妻帯は行われていたし、鎌倉時代には一家全員が僧侶という家系も存在していたことがわかっている。親鸞もまたそうした家族を作った一人として有名である。

 日本仏教にとって“家族”とはなんだったのか、またそのなかで性別役割分担はどのように行われたのか、これまでの研究成果を紹介しながら、いっしょに考えてみたい。

(おおたに・ゆか)