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― 「現代に生きる人々」と対話するために ―

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今との出会い 第163回「市場経済とペットの命」

親鸞仏教センター嘱託研究員

大谷 一郎

(OTANI Ichiro)

 先日、妻が野良猫の赤ちゃんを連れて帰ってきた。勤め先の事務所の横に捨てられていた三匹の子猫を、職員三人で一匹ずつ引き取ってきたという。家にはすでに犬、猫各一匹いるので、まさかと思ったが、いたし方ない。すでにいる猫は新参者に興味津々だ。ゴロニャーゴと低い声で鳴きながらそばから離れない。犬も尾を振りながら鼻先で小突いている。すでにいる二匹も里子だ。縁あって、犬はペットショップで成犬になってしまったのを引き取り、猫も野良の子どもを引き受けた。


 飼いはじめるのは簡単だが、実際に毎日面倒を見るのは大変である。散歩や食事、排泄(せつ)物の片づけなど結構手間がかかる。調子が悪そうなら心配になり動物病院へ連れて行くのだが、人間と違い健康保険はないので高額だ。また、長生きすると20年くらい生きるので、そのころ私も生きていれば70歳を越える。犬も猫も人間と同じく年を取って認知症になることもあるという。かわいいだけではとても飼えない。


 近年のペットブームで、現在のペット市場の規模は1兆4000億円にのぼるとも言われている。1兆4000億円といってもピンとこないが、例えば、紙ベースの出版物の市場規模とほぼ同等である。近所のショッピングモールに行けば必ずといっていいほどペットショップが入っていて、10万円から25万円くらいの値の付いた多くの子犬、子猫たちがショーケースに展示されている。休日にもなれば大勢の客が集まっているのを見ると、それだけの規模があるのもうなずくことができる。

 その一方で、あまり表には出てこないが、売れ残った動物の多くは処分業者に引き取られ処分されているのだ。全国で殺処分される数は、実に年間10万匹だという。一日にしてみると300匹近くが殺されているわけだ。


 人間の欲望を基本にした市場経済のなかでは、残ったものは処分される。ものではなく、犬や猫という命を市場経済にのせ、大量消費し、いらないものはゴミのように処分してしまう感覚に違和感を覚えざるをえない。


 今の社会は、夢とか希望とか耳触りのいい言葉や自分に快さを与えてくれるものであふれているが、不快なものや苦しいこと、都合の悪いものはなるべく見えないように覆い隠しているように思う。だからこそ、本当の姿を自分から求めていく姿勢が大切になる。


 ペットの問題にしても、命を大切にというのはたやすいが、実際に目の前にある命とどう関わっていくのか、一人ひとりの態度の問題である。それにはこれだけ多くの動物たちが毎日殺されているという現状を知るということなくてはできないことだろう。


(2016年12月1日)

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