親鸞仏教センター
お問い合わせ
 
「現代を生きる人々」と対話するために
HOME親鸞仏教センター概要アクセスサイトマップ
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内研究員一覧
 HOME > 研究活動報告 > 現代と親鸞の研究会
研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2004年12月3日、東京ガーデンパレス(文京区)において、東京大学大学院教育学研究科助教授の西平直氏を迎え、「現代と親鸞の研究会」を開催した。現代における自己探究のあり方を追及されている西平氏に、自己探究の重要な要素であるアイデンティティとスピリチュアリティの関係について語っていただいた。ここにその一部を紹介する。(本多雅人)
アイデンティティとスピリチュアリティ
 ―近現代における探究と現代社会における意味―


東京大学大学院助教授 西平 直
■アイデンティティとスピリチュアリティの根本問題
 アイデンティティという言葉は、トランスパーソナル理論で言えばパーソナルに相当し、ユングで言えば自我に対応します。
 この、アイデンティティ=パーソナル=自我を強調するとは、ひと言で言えば、「自分を大切にしよう」というメッセージです。その自分というのは、主体性という言葉で語られたりする対人関係のなかの自律的主体、社会のなかの自立的個人、振り回されない、流されない主体性の確立です。しかし、それは裏を返せば、支配し、操作し、利用する主体になります。アイデンティティは「我」という言葉に相当する。ということは執着(しゅうじゃく)、特に、我執(がしゅう)にとらわれていくということです。
 それに対して、スピリチュアリティ=トランスパーソナル=個性化というのは、メッセージとしては、「自分にこだわるな」ということです。あまり自分にとらわれない、縛られない、ないしは、より広いアイデンティティへ向かうという文脈になります。離れる、溶ける、消す、しがみ付かない、身を引き剥(は)がす、という方向です。これらを「自己否定性」と、ゆるやかに特徴づけます。
 こうした枠組みのなかで何を問題にするのかというと、一つはアイデンティティの問題。アイデンティティは必要だが、アイデンティティは執着になってしまうという点です。そして偏見になり、独断的、閉鎖的、排他的になり、敵をつくっていくのです。だとしたら、アイデンティティをゆるやかに保ちながら、それにとらわれず、異質なアイデンティティと対話し、共存する寛容なアイデンティティは可能か、ということが一つの問題になります。
 もう一つは、逆にスピリチュアリティの問題。それは内面への沈潜であり、個人で探究することとして、とても大切だと思います。ところが、それはあらゆる乱用に対して無防備です。現実離れであったり、社会的批判意識を欠いたり、センチメンタルな自己満足に堕したり、あるいは全体主義と補完的になったりします。そうした危険からいかに身を守ることが可能か。そのためにどういうポイントに気をつければいいのか。この二つの難問が今日の課題です。
■アイデンティティとスピリチュアリティとの兼ね合い
 スピリチュアリティは、内面の出来事ですが、他者や社会から離れた個人の内面に閉じこもるのではなく、一度社会から離れた後に、あらためて関わり直すようなあり方を考えたいのです。アイデンティティの問題から離れた「純粋なスピリチュアリティ」は、理念に過ぎないのだろうとも思います。
 そうすると、アイデンティティを求めつつ、しかし、とらわれない、縛られないことを理念とした「無自性のアイデンティティ」を考えたいわけです。
 この問題を、精神分析家のエリクソンは「超越的アイデンティティ」として捉えるのです。それは決して地上では実現されない。そういう人類共同のアイデンティティを「超越的アイデンティティ」と呼んで、これを絶対的な否定性と考えます。つまり、「地上のあらゆるアイデンティティ」に対して、身の程(ほど)を知らせるのです。例えば、「わが宗教こそ、すべての宗教を包括している」という言い方が、一番危険です。そういうアイデンティティは、決して地上では実現できません。すべてを包括するアイデンティティを理念としては置くけれども、これは絶対否定するだけであって、実現されないのです。そういう意味で、「超越的アイデンティティ」という言葉を使っています。
 さらに、エリクソンは、トータリティー(totality)としてのアイデンティティと、ホールネス(wholeness)としてのアイデンティティを区別します。どちらも全体性という意味は同じですが、トータリティーというのは、いわば固定的、閉鎖的、排他的です。それに対して、ホールネスというのは、包括的、柔軟、多様、未完で動き続けていくアイデンティティと言うのです。「無自性のアイデンティティ」は、「ホールネスとしてのアイデンティティ」ということになります。
 トータリティーにならないような工夫を仕込んだアイデンティティ、つまり、何らかの自己否定を内に含んだアイデンティティ形成です。
 ここでアイデンティティとスピリチュアリティの兼ね合いを整理してみたいと思います。  スピリチュアリティということを、アイデンティティに内在する自己否定性として理解したい。そういうスピリチュアリティがあってはじめて、「ホールネスとしてのアイデンティティ」が可能になるということです。それに対して、スピリチュアリティがないときには、「トータリティーとしてのアイデンティティ」となっていってしまいます。そういう関係でとらえたいと思います。
 他方で、今度はアイデンティティをスピリチュアリティに内在する自己肯定性として理解したい。つまり、スピリチュアリティが自己否定性、解き放っていく方向であるとすれば、アイデンティティは自己肯定です。アイデンティティがあってはじめて「現実社会におけるスピリチュアリティ」が可能になります。ないしはアイデンティティがないと、無防備、無節操となって、何でもありになってしまいます。そういう兼ね合いとして考えていきたいと思っています。
(文責:親鸞仏教センター)
※西平直氏の問題提起と質疑は、『現代と親鸞』第9号(2005年12月1日号)に掲載しています。
西平 直(にしひら ただし)東京大学大学院教育学研究科助教授
1957年、山梨県生まれ。信州大学人文学部卒業。東京都立大学大学院(哲学専攻)修士課程修了。東京大学大学院(教育学専攻)博士課程修了。教育学博士。専攻は教育人間学。著書に『エリクソンの人間学』『魂のライフサイクル』『宗教心理の探究』(以上、東京大学出版会)、『魂のアイデンティティ』(金子書房)、『シュタイナー入門』(講談社現代新書)、近著に『教育人間学のために』(東京大学出版会)など多数。
Backnember ページトップへ
公開講座 親鸞思想の解明 現代と親鸞の研究英訳『教行信証』研究会
清沢満之研究会 「三宝としてのサンガ論」研究会
「正信念仏偈」研究会源信『一乗要決』研究会聖典の試訳『尊号真像銘文』研究会
近現代『教行信証』研究検証プロジェクトインタビュー
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内バックナンバー一覧
親鸞仏教センター
MAP
親鸞仏教センターTwitter親鸞仏教センターfacebook

親鸞仏教センター [真宗大谷派]<br>〒113-0034 東京都文京区湯島2-19-11
TEL 03-3814-4900 
FAX 03-3814-4901 
mail:shinran@higashihonganji.or.jp
 
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます
Copyright©The Center for Shin Buddhist Studies. All rights reserved.
ホーム 親鸞仏教センター概要 講座のご案内 スタッフ紹介 バックナンバー一覧 リンク サイトマップ アクセス