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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2005年9月27日、東京ガーデンパレス(文京区)において、教育学者の佐藤学氏を迎え、「現代と親鸞の研究会」を開催した。佐藤氏は、新自由主義とグローバル化時代のなかでのさまざまな教育の問題を解明されながら、これからの教育のあり方について提言された。ここにその一部を紹介する。(本多雅人)
本当の教育とは何か

東京大学大学院教授 佐藤 学
■新自由主義とグローバル化時代の危機
 1980年以降、中学校で校内暴力が一挙に広まり、日本の教育の深刻な危機の出発点になりました。急速な近代化がピークに達すると、学校は成功を生む場ではなく、むしろ挫折、失敗の場になっていきます。それまでは、世界一勤勉な子どもたちであり、世界一学校が信頼され、教師も尊敬されていました。本来は、この転換点で新しい社会に対応するために、教育の目的、理念、制度なりを根本的に解決する必要があったわけですが、この転換が図られないままに今日まできたということです。そのなかで一番深刻なのは、「学びからの逃走」です。子どもたちは学校に行く目的とか、教育の目的や意味を見いだせなくなっています。
 現代の危機という問題の一番の根幹は、おそらく「新自由主義」の浸透にあると思います。これに拍車をかけたのがグローバライゼーションであったと思います。世界全体が、新しい教育と社会の状況を迎えるに至りました。これを「グローバル化時代」と呼びます。
 グローバル化は、労働人口と労働市場を大きく変化させました。産業主義からポスト産業主義への移行におけるこの10年間に、若年労働市場の9割が消え、従来の労働市場が崩壊しました。ポスト産業主義社会は、高度な知識をもつ人材を必要としているからです。同時に、雇用形態も変化しました。現在、フリーターが増えていますが、若年層が低賃金のなかにどんどん組み込まれ、安定した社会参加ができない状態に放置されています。また、学齢児童の5人に1人が貧困層であり、日本の近代家族の崩壊も急速に進んでいます。親が責任をもって教育するというのは、近代家族が生み出した規範であり、システムだったのですが、これが解体してきています。
■新自由主義が生み出した不信
 教育の危機は、教師不信とか学校不信に一番端的に表れています。新自由主義の考え方では、教育はサービスです。サービスの提供者に対して消費者という構図が、教師と親との関係なのです。保護者がサービスの受け手になれば、当然、文句を言います。文句を言うと、今度は学校側が教師に保護者の文句を託さざるを得ないという悪循環になります。結局、市場原理がもたらすサービスの関係というのは信頼を切り、お互いを不信と防衛のなかに置いていくのです。本来、責任で行わなければならない教育を、サービスに転換することによって起こる人間関係の破綻はすさまじいものだと思います。
 そのようななかで、教師の尊厳はズタズタです。なおかつ教師たちは、子どもの一番身近にいます。子どもの危機的な状況を背負えば背負うほど、社会から孤立していくわけです。現在、東京都では、定年まで勤めている教師は4割もいません。学校に希望がもてないのです。だから教師の尊厳を守り、彼らの仕事を支援し、さらには質の高い教師が入ってくるシステムを早急につくらなければいけないと思っています。
 市場原理主義の大きな問題は、欲望が拡散してしまうことです。そして、そこに参入すればするほど、自分がわからなくなってしまうという問題があります。自分がわからなくなればなるほど、またそこに欲望していくという悪循環です。ここに生じているのは人間不信、それから社会不信、政治不信です。
 いま新しい管理システムとして、「数値目標」というかたちが支配しています。これは、明らかに新自由主義がつくり出した新しい能力主義と、競争主義の社会における数値による管理システムだと思います。例えば、学力テストにしても、子どもの学力を高めることが問題ではありません。それを測定することによって、市民も学校も行政もコントロールされるのです。
■市民性の教育
 このような状況のなかで、教育の目的と理念が広く問われてきました。その表れが「市民性(シチズンシップ)の教育」です。市民とは、社会の主体ということです。
 「市民性の教育」ということで、3年後に全国の学校に市民性の教育のガイドラインを提案したいと考えています。その柱が、「主権者の教育」「公共倫理の教育」「葛藤解決の教育」です。この3本柱で、小学校から高校に至るまでの教育プログラムを提示し、高校を卒業すれば、社会参加の基礎的な知識と政治参加のできる能力を育てていこうという計画です。
 市民性の教育は、21世紀の学校カリキュラムの中核(市民的教養の教育)であり、民主主義の政治と倫理と、その行動の教育(信頼と協力と参加)です。特に、信頼の教育は重要だと思います。社会のなかで一番大切なものは、社会契約による信頼です。ところが、不信の構造のうえで改革をやろうとするから失敗してしまうのです。学校改革のなかでいくつかのモデル校をつくってきた経験から言えば、不登校や学級崩壊などの問題を解決していく一番の鍵になるのは、信頼と協力です。私は、子どもたち、教師、親、専門家が参加し、共に学び合い、育ち合う「学びの共同体」づくりという社会的実験を学校単位で行っています。これが、私のデザインした学校づくりですが、信頼と協力を実現できれば、まだまだこの社会は捨てたものではありません。実際にそれに取り組んだ小学校と中学校の大半が、2年間で不登校も9割なくし、学力は、県下でもトップレベルになりました。非行はもちろんゼロで、誰ひとりうつむいていません。そういう学校が実現できています。
 いままで、日本の学校は改革のデザインができていなかったのです。ヴィジョンと哲学がデザインされ、それが市町村の自治体によって支えられれば、決して学校改革も、協力し合う新しい市民社会も、実現不可能ではありません。そこに希望を託したいのです。
(文責:親鸞仏教センター)
佐藤 学(さとう まなぶ)東京大学大学院教育学研究科教授
1951年、広島県に生まれる。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。教育学博士。著書に『「学び」から逃走する子どもたち』(岩波ブックレット)、『教育改革をデザインする』(岩波書店)、『授業を変える 学校が変わる』(小学館)など多数。また、『アンジャリ』第6号(親鸞仏教センター)に「子どもへのまなざし―表象される現実と見失われる現実―」を執筆いただいている。
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