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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2006年9月16日、真宗大谷派蓮光寺(葛飾区)において、建築家の民岡順朗氏をお迎えして、「現代と親鸞の研究会」を開催した。民岡氏は、経済優先型の日本の都市計画に警鐘をならし、イタリアの「修復」の技法をはじめとした都市計画に学び、日本の都市の再生を提案している。ここにその一部を紹介する。(嘱託研究員 本多雅人)
都市の記憶を継承する
〜イタリアに学ぶ修復型都市再生〜


建築家 民岡 順朗
■記憶を喪失した日本の都市
 日本では、驚くほど「都市」という問題が議論されていません。福祉や教育、環境や経済、犯罪や防災の問題などは議論されても、都市の問題というのはほとんど出てきません。唯一、新聞などに登場するのは、「都市再生」という話題です。とは言っても、要は高層ビルを建て続ける、そして利潤を得るのは、デベロッパーとゼネコンだけというのが実態です。
 近代都市計画が行きづまっている根本的な原因はいくつかあると思いますが、日本の都市は、人間にではなく、経済や産業にとって都合よくつくられています。こうした経済効率主義の考え方を、複雑系である都市に、単純に適用し、均質化していった結果、いわゆる都市の「風景」が喪失してしまったのだと思っています。そこには、個性がないというか、まとまりがない風景しかありません。日本の都市は、どこに行っても似ていて、差異(ちがい)を見つけることはほとんどできません。都市計画のプロの視点から見ても、同じ基準でつくっているのではないかというくらいよく似ています。それが、日本の国土を埋め尽くすような状況になってきているのです。そういうなかで育った子どもたちは、当然のことながら個性がありません。人間性というか、個性を抑圧するような状況の背景には、そういった都市の無個性化、生活の場の無個性化というバックグラウンドが横たわっているのではないか。もっとその点を社会問題として焦点を当てるべきではないか、というのが私の考え方です。
 「風景」とは、その地域の自然物や人工物など、さまざまな物質的側面を結びつけているだけではなく、人びとの歴史や文化をも束ねているので、社会を形成する大きな役割を担っていると言えます。風景が失われていくとは、言ってみれば、「都市の記憶の喪失」です。また、歴史や文化が感じられなくなると同時に、人びとの絆が失われていくという、まさに現代の精神破壊の一因になっているのではないかとも考えています。しかしながら、その風景の破壊を招いているのは、一人ひとりであって、風景の破壊を批判するまえに、自己を切開する必要があると思っています。他人ごとのように言うのではなくて、風景を破壊してきたのは、 われわれ自身であるという認識が大切です。
 近代的な都市計画を突きつめていくと、文明の危機の問題につながっていきます。ですから、日本の都市計画に関して、近代以前の伝統や、歴史や文化をもっと見直していくべきだと思います。そういうところに焦点を当てないと、地域の人びとにとっても、住みやすい都市にはなりません。
 それに対して、例えば、イタリアの都市は歴史や文化を重要視します。生活を基盤とした人間重視の都市計画を進行させていますから、きちんとした都市の「風景」があるのです。そして、イタリアの都市はとても個性的であるだけでなく、都市計画が経済ニーズにもマッチしています。
■歴史的価値の保全と将来への継承に向けた処置
 百年後の日本は、イタリア並みの人口(約6,000万人<『日本の将来推計人口・人口問題研究所』>)が予測されます。日本は、イタリアと地形的にも似ていますし、人口減少時代の都市を考えていく上で、コンパクトで集約型のイタリアの都市から学ぶべきことは多いと思います。
 「チェントロ・ストリコ(centro storico)」という言葉がありますが、これは、「歴史的都心部」とか「歴史的中心街」という意味です。たとえばフィレンツェでは、アルノ川の両側はかなり大きいチェントロ・ストリコで、これ全体が世界遺産に指定されています。チェントロ・ストリコの中には、市庁舎、教会、広場、貴族の邸館や美術館・博物館、古い街路や公園など、さまざまな歴史的施設が集積しています。これはローマでも、ナポリ、ミラノ、ヴェネツィアでも同様です。ただ古いエリアで観光客が集まっているというだけでなく、現在でも多くの人が住み、政治・経済・文化活動が営まれる「生活の舞台」となっています。
 さて、「修復」という言葉がありますが、これは、「壊れたものの機能を回復してきれいに直す」という、いわゆる「修理」とは違います。そうではなく、美術作品や建築、都市などの「歴史的価値の保全と将来への継承に向けた処置」を意味します。ですから、特に問題がなければ、そのときの状態のまま「保存」するという考え方です。チェントロ・ストリコの修復も同様で、そこに住んだり、そこで活動している人びとの生活の持続を前提に、まちを保全していこうというものです。
 「修復」は、イタリア語で「レスタウロ(restauro)」と言い、「レストラン(restaurant)」と親類関係にある言葉です。レストランが、元来、「食を通じて人を癒す場」を意味していたように、都市のレスタウロと言えば、「都市を癒す」行為と表現することもできます。
 イタリアの都市計画は、百年先、二百年先を考えながら、先人たちがつくり上げた過去の形を大事にし、その価値や意味を現代生活に活かしていくことを前提にしています。歴史的記念物の保存をきっかけにしながら、いわば「自己治癒力」に訴えるように、都市計画を行っているのです。
 ところが、日本の都市計画は「対処療法」です。そうではなくて、イタリアの修復型都市再生に学びながら、季節感や身近な自然を大事にするなど、日本人独自の「癒し」の伝統を、もっともっとまちづくりに取り入れていくべきではないでしょうか。
 いま日本の都市再生に求められていることは、歴史性の微かな痕跡でも再発見し、保存・修復することで、都市の記憶を再生することです。そしてそのことを通じて、都市に対する人びとの記憶を回復し、みんなが共有できるようにすることではないかと思っています。
(文責:親鸞仏教センター)
民岡 順朗(たみおか じゅんろう)
1963年、埼玉県に生まれる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。株式会社オリエンタルコンサルタンツ都市・景観グループリーダー、技術士、一級建築士。98年、イタリアに留学。フィレンツェ、ローマで修復の理論と実践を学び、2001年に壁画修復コースを修了、ラツィオ州認定のディプロマを取得。01年から03年、リニャーノ・フラミーニオ市、ヴィテルボ市、サン・クイリコ・ドルチア市にて、壁画修復実務に従事。03年に帰国。著書に『「絵になる」まちをつくる―イタリアに学ぶ都市再生』(生活人新書 NHK 出版)がある。
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