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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2008年1月11日、アルカディア市ヶ谷(千代田区)において、津田塾大学学芸学部英文学科准教授である坂上香氏をお迎えして「現代と親鸞の研究会」を開催した。犯罪や暴力の当事者(被害者、加害者、周辺社会)がマス・メディアによってどのように報道され、それが社会全体にどんな影響を与えているのかを明らかにしながら、被害者と加害者とが共生できる社会を模索されている坂上氏に「善悪を超える―人間回復への試み―」をテーマに語っていただいた。ここに、その一部を紹介する。(嘱託研究員 本多雅人)
善悪を超える―人間回復への試み―

津田塾大学准教授 坂上  香
■ 和解―死刑以外で解決を求めること
 私は、アメリカでのアムネスティ・インターナショナルの活動をとおして、死刑は犯罪の抑止力にならないのに、なぜ死刑制度があるか疑問をもつようになりました。また、被害者のために死刑はなくなるべきではないと感じていましたが、ベロニカさんという女性との出会いによって、死刑を望まない被害者も、当然のことながらいるのだと気がつかされたのです。
 では、被害者と加害者の共生は可能なのでしょうか。その試みをしているアメリカの「ジャーニー・オブ・ホープ」について、まずお話をしたいと思います。
 「ジャーニー・オブ・ホープ」(以下、「ジャーニー」)とは希望を追い求める旅という意味です。「ジャーニー」は死刑囚の家族と被害者の遺族という、まったくちがう立場の人たちが、死刑に反対するという目的で二週間いっしょに時を過ごして、死刑制度がある州の一般市民に向けて語り歩くのです。そこで、被害者と加害者の憎しみや恨みを乗り越えた姿が見られることは、とても注目すべきことなのです。日本でも別に死刑にしがみつかなくてもいいのではないかと思えるきっかけを作りたいと考え、企画を書いた結果、「ジャーニー」は番組化され、1996年に NHK の衛星放送で、その後地上波でも再放送されました。
 90年代の終わりくらいから「ジャーニー」という団体と、MVFR(Murder Victims Families for Reconciliation)という和解のための殺人被害者遺族の会に分かれますが、いずれにしても、被害者遺族も、死刑囚の家族も両方とも「殺人」の被害者だと、彼らは考えています。死刑は、国家によって人を殺すことだから、殺人事件の被害者遺族も、死刑で命を奪われた家族も同じだという考えで活動しているのです。人に死を求めず事件に向き合うことが彼らにとっての「和解」だと取材をとおして感じました。
 強盗殺人事件で弟さんが殺され、『弟を殺した彼と僕』(ポプラ社)をお書きになった原田正治さんがこの「ジャーニー」に感銘を受け、2003年に一人で日本を行脚され、自分の体験と死刑ではないものも求めるということを語られました。そういう活動を基に彼は「オーシャンズ」という団体を立ち上げ、写真家のトシ・カザマさんたちの支援を受けながら、いま地道な活動を始めようとしているところです。
■ 犯罪者の社会復帰への取り組み
 続いて「アミティ」という犯罪者の更生施設についてのお話をしたいと思います。「アミティ」は友情とか友愛を意味する団体で、犯罪者やあらゆる依存症の社会復帰を支援しています。ここでの生活は3カ月から2年までと、人によって異なります。家族といっしょに暮らすことも許されているアメリカでも稀まれな施設です。「アミティ」では毎年3回、リトリートと呼ばれる集中体験講座が開かれます。期間は一週間、集中講座のテーマは毎回異なります。私がおどろいたことは、スタッフとここに暮らしているレジデントと呼ばれる加害体験のある人たちが、ほとんど同じ目線なのです。普段着を着ているし、名札もないし、帽子を被っているわけでもありません。誰がスタッフで誰がレジデントなのかは見分けがつきません。とても対等な眼まな差ざしで、またスタッフの人たちが非常にオープンなのです。
 私はこの「アミティ」と1995年以来関係を築き、2004年にはカリフォルニア州のサンディエゴ郊外の R・J ドノバン刑務所が舞台となった『Lifers』という映画を作りました。200人の参加受刑者たちが、「自分がなぜ犯罪をするようになったのか」という問いに徹底的に向き合い、そのために虐待や家庭崩壊など自分の体験を語りながら、罪の償いを模索して、「どのような未来を生きていくか」を真剣に考えていくプログラムです。そういう試みがアメリカでは行われているのです。
■ 映像製作で見えてきたこと
 映像制作の現場で見えてきたことは、日本のマス・メディアで報道されているのは、特に犯罪、暴力に限定されているということでした。毎日膨大な量の犯罪報道が流れていて、私たちに伝わってくるのがその一部にすぎないとしたら、マス・メディアの影響はすごく大きいだけに、それはとても危険なことです。私がテレビの現場にいるときから心がけていたことは、テレビが報道したがらないものに目を向けて、取材をしていくことでした。私たちは、イージーにアクセスできる声だけではなくて、それ以外の声にも耳を傾けることが必要なのではないかと思います。アメリカの死刑をめぐって「ジャーニー」の番組を作り、アメリカの犯罪者の更生をめぐって「隠された過去への叫び」という番組を作りましたが、それはアメリカの事情を単に知らせたかったからではなく、むしろ日本の状況を変えたいというか、みんなに関心をもってもらいたいというところから始まっているのです。問題を指摘するだけでオルターナティブな社会の像が描けないと、いまあるものにしがみついてしまいます。さまざまな声を聞くことによって、もうひとつの社会、コミュニティーのあり方が可能であるというビジョンをもつことが大切だと思います。
(文責:親鸞仏教センター)
坂上 香(さかがみ かおり)津田塾大学准教授
1965年、大阪府に生まれる。国立音楽大学附属音楽高等学校普通科卒業後、渡米。ウエストバージニア大学国際関係学及びスペイン語併学専攻卒業、ピッツバーグ大学大学院社会経済開発学専攻修士課程修了。テレビ番組制作会社のディレクターの後、京都文教大学文化人類学科助教授を経て、現在、津田塾大学学芸学部英文学科准教授。映像ジャーナリスト。ドキュメンタリー映像作家。著書に『癒しと和解への旅―犯罪被害者と死刑囚の家族たち』(岩波書店)、共編著に『アミティ・「脱暴力」への挑戦―傷ついた自己とエモーショナル・リテラシー』(日本評論社)など多数。また、映像作品に NHK 日曜スペシャル『ジャーニー・オブ・ホープ』(文化庁芸術祭優秀作品賞)、『ライファーズ―終身刑を超えて』(New York International Independent Film and Video Festival海外ドキュメンタリー部門最優秀作品、SIGNIS JAPAN〈日本カトリックメディア協議会〉2004年度「日本カトリック映画賞」受賞)など多数。
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