親鸞仏教センター
お問い合わせ
 
「現代を生きる人々」と対話するために
HOME親鸞仏教センター概要アクセスサイトマップ
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内研究員一覧
 HOME > 研究活動報告 > 現代と親鸞の研究会
研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2009年9月4日、東京ガーデンパレス(文京区)において、森田療法研究所所長の北西憲二氏をお迎えして「現代と親鸞の研究会」を開催した。現代社会の人々の心の問題といかに向き合うかということに、森田療法という東洋の人間理解に根ざした精神医療の立場から活動を続けておられる北西氏に「現代社会と森田療法―現代人の苦悩の理解とその解決を目指して―」というテーマで語っていただいた。ここでは、その一部を紹介する。(嘱託研究員 春近 敬)
現代社会と森田療法
―現代人の苦悩の理解とその解決を目指して―


森田療法研究所所長 北西 憲二
■ 森田療法とは
 森田療法とは、森田正馬(まさたけ)(1874-1938)によって生み出された日本の伝統的な精神療法です。森田は、東洋的な人間理解をベースに、西洋の医学的なモデルを統合させることで森田療法を確立させました。かつては数ヵ月間の入院治療が原則でしたが、現在は外来療法を中心に、日記・通信療法、自助グループへの参加などを組み合わせた治療を行っています。
■ 苦悩に向き合うということ
 1980年に、アメリカで神経症の診断基準が発表されました。それまでは、神経症は一般に心理的な病気であり、さまざまな環境的な要因も絡んでいると考えられていたのですが、そのような考え方は解体され、脳の機能障害という生物学的な問題として主張されるようになりました。そして、それとほぼ平行するかたちで薬物療法が行われてきました。
 このような流れは、過度の医療化へと方向付けることになります。人との関係で苦しんでいる人、ちょっとしたことで落ち込む人、心の傷を負った人、ストレスで心身に不調を来しているような人たちすべてに診断がつくようになってきています。私たちが人生を生きていくうえで向き合わざるを得ない当然の苦悩というべきものと、どこで線引きができるのかということについて明確な議論のないまま、医療の枠組みが広がり続けているのです。生きていくうえでの苦悩というものは、その人の特性ともいえる面もあるのではないでしょうか。しかし、この流れではすべての苦悩はマイナスなものとされ、取り除かなければならないものとされます。たとえば、内向的な人は社交的でアクティブでなければならない、という発想になるのです。そして、その劣等感から自分は薬を飲まなければならないのだ、という方向に至るわけです。
 人間の苦悩というものは、遠ざければ遠ざけるほど長く続き、いつまでもそこから逃れられないものです。悩みがあって薬を飲み、今度は別の悩みが出てきてまた薬を飲むという、終わりのない循環です。そうではなく、そのような苦悩の経験は避けがたいものであると観念することによって、また違った苦悩との関わり方が現れてくるのではないでしょうか。必ずしも薬に頼るという方向ではなく、自分自身で治していく力をもう少し信頼したりするような考え方や関わり方が、このような時代だからこそ重要ではないかと思います。
■ 「あるがまま」の生き方
 西洋の精神療法は、認識の変化を通して不安や情緒をコントロールしようとする考え方です。西洋では、不安なことや不快なことは基本的には「あってはならないもの」と見なされます。今や、日本でもそうなりつつあります。本来、人間に当然のようにあるものを「あってはならないもの」として認識し、取り除こうとするところにその人の苦悩があるのです。森岡正博(大阪府立大学教授)さんが、現代社会は「無痛文明」だと言っておられますが、出口のない苦悩にいちばん陥りやすいのは、まさにそうした無痛の生き方をしたい、つまり自己中心的に全ての物事を思いどおりにしたいという思想の矛盾に嵌(はま)っている人たちなのです。
 これに対して、森田療法では、不安や情緒をありのままに受け入れていくことからもたらされる認識の変化を重要視します。原因を探求してそれを取り除こうとするのではなく、関係性から見ていくことで明らかにしていきます。そして、自然に任せた回復ということに重きを置きます。認識の変化自体はどちらにおいても起こるのですが、その方向性はまったく異なるものです。
 こういった考え方の根っこには、「自然」という考え方があります。悩む人は、自分が欲するままにならないことで悩みます。自らの思うようにならないから苦しみます。思うがままにならないことを、思うようにしようとする生き方が「我執」であって、それがまさに自己愛のあり方なのです。ですから自然と対比することで、自己愛に基づく自己万能感の限界を知るのです。たとえば、老、病、死といったことは確かに生きるにあたっての苦悩かも知れませんが、これはもう私たちにとってどうしようもないことです。どうしようもないことであれば、受け入れるしかない。そのためには、自分の限界を知るしかない。確かに怖いものは怖い。これは事実です。そういう自然な感情に対して、私たちはどうすることもできません。しかし、そういった諦めからそれを受け入れるという展開が起こったとき、生きる欲望が湧いてくるのだ、と森田は言います。この欲望を私たちは諦めることはできません。そういう意味で、私たちの欲望には底がないのです。森田は、その欲望によって生きればいいと言うのです。森田療法は、単に諦めるという精神療法ではありません。本当の意味での「諦め」、つまり物事の有り様を「明らめ」ていって、その事実を受け入れたとき、そこに新しい生き方が見えてくるのです。これを私は「あるがまま」ということだと理解しています。
(文責:親鸞仏教センター)
北西 憲二(きたにし けんじ)森田療法研究所所長、日本女子大学人間社会学部教授
1946年、埼玉県に生まれる。東京慈恵会医科大学卒業。72年、スイス・バーゼル大学精神科・うつ病研究部門に留学。79年、東京慈恵会医科大学第三分院精神科にて、森田療法の実践と研究に従事、のち科長。同大学精神神経科助教授も兼任。96年、成増厚生病院診療部長、副院長を経て、森田療法研究所を開設。医学博士。森田療法学会理事長。集団精神療法学会常任理事。森田療法学会認定医。 著書に『「くよくよするな」といわれても…くよくよしてしまう人のために』、『軽度・神経症を治す―考え方しだいで心は楽になれる』(以上法研)、『我執の病理―森田療法による「生きること」の探求』、『森田療法で読むパニック障害―その理解と直し方』(以上白楊社)、『実践森田療法―悩みを活かす生き方』、『親子療法―引きこもりを救う』、『中年期うつと森田療法』、『森田療法のすべてがわかる本』(以上講談社)、『森田療法と精神分析的精神療法』(誠信書房)など多数。
Backnember ページトップへ
公開講座 親鸞思想の解明 現代と親鸞の研究英訳『教行信証』研究会
清沢満之研究会 「三宝としてのサンガ論」研究会
「正信念仏偈」研究会源信『一乗要決』研究会聖典の試訳『尊号真像銘文』研究会
近現代『教行信証』研究検証プロジェクトインタビュー
濁浪清風今との出会い研究活動報告出版物紹介講座案内バックナンバー一覧
親鸞仏教センター
MAP
親鸞仏教センターTwitter親鸞仏教センターfacebook

親鸞仏教センター [真宗大谷派]<br>〒113-0034 東京都文京区湯島2-19-11
TEL 03-3814-4900 
FAX 03-3814-4901 
mail:shinran@higashihonganji.or.jp
 
掲載の記事・写真の無断転載を禁じます
Copyright©The Center for Shin Buddhist Studies. All rights reserved.
ホーム 親鸞仏教センター概要 講座のご案内 スタッフ紹介 バックナンバー一覧 リンク サイトマップ アクセス