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研究活動報告
現代と親鸞の研究会
 2015年4月7日、社会学者であり、現在は立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授、NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長の上野千鶴子氏を迎え、「現代と親鸞の研究会」を開催した。これまで、フェミニズムの視点から、社会が孕(はら)む問題を鋭く突いてきた上野氏。誰もが迎える死に際し、われわれには具体的にどのような準備が必要で、またそのときをどのように迎えるのか、そしてそれらの問題へ宗教はいかにかかわりうるのか。その課題に迫った。
(親鸞仏教センター嘱託研究員 大澤絢子)
終末期ケアにおける宗教の役割
―死にゆく人はさびしいか―


社会学者  上野 千鶴子氏

■ 家族介護神話
 少子高齢社会の背後にあるのは晩婚化、非婚化です。日本における家族介護は嫁の介護力抜きにはこれまで果たされませんでしたが、そうした状況をいくら持ち上げても、失われた過去は望んでも二度と手に入りません。
 昔の高齢者はその絶対数が少ない。それに対して家族の数が多い。それから要介護期間が短い。感染症になったら、あっという間に死んでしまいます。それから介護水準が低い。現在の日本は栄養水準、衛生水準、医療水準、介護水準が世界的に見て高い水準にあります。それが、これだけの長寿社会を生んでいるのです。よって、以前の日本の家族に介護能力があったというのは嘘で、家族みんなに看取られての死を理想化してもらっては困るのです。
 介護してくれる家族として今、トップにくるのが配偶者です。夫婦どちらかが先に倒れたら、残ったほうが介護せざるをえない。そして、夫の介護者が増えてきました。その次が娘です。娘は実家の親の介護負担から免れず、別居通勤介護者となっています。そして同居の息子です。息子は非婚率が高まっていますので、この人たちが高齢化して、さらに高齢の親の面倒を見るという、驚くべき変化が見られます。その結果として家族介護者の男性比率が現在約3人に1人、もはや家族介護は女性問題とは言えなくなりました。また独居高齢者が高齢者世帯の約2割、高齢者夫婦世帯が約3割を占めます。もし夫婦どちらか片方が亡くなったら、いずれ独居高齢者になりますから、みんな最期はおひとりさまということになっていきます。これからは家族介護力をもはや期待できないということを前提にして、高齢者の在宅生活をどう支えるかという問いに私たちは解答を与えていかなければならないのです。

■ 予期できる死の増加
 同時に死に方も変わりました。死に方の順位上位3位は癌、脳血管疾患・心疾患、感染症、80代以上では老衰です。ピンピンコロリでは死ねません。脳血管疾患・心疾患でも、リハビリしながら最後に致命的な発作が起きて死ぬまでの期間が長いのです。その間に誤嚥(えん)や感染症、肺炎などで死ぬのであって、昔の結核のような感染症とはまったく違います。超高齢社会の死はゆっくり死で、確実に予期できる死。これがかつての死との違いです。

■ 施設ではなく在宅で

 日本の高齢者の持ち家率は非常に高く、八割を超しています。さらに、現代の人口減少社会では住宅が余っています。ですから施設もいりません。にもかかわらず施設が足りないという声があって、待機高齢者は、全国52万人だと言われます。しかし、施設入居の意思決定者は家族です。まれに自分の意志で入る高齢者がいますが、それも家族への配慮から入っています。すすんで施設に入る高齢者はいません。つくづく思うのは、家にいたいの
はお年寄りの悲願だということ。これは現場に行くと本当にそう思います。
 どなたに聞いても在宅死には、本人の強い意志、家から出て行ってほしいという周りの抵抗勢力を押し返す強い意志が必要だとおっしゃいます。しかし強い意思がいるのは、むしろ病院やホスピスに入るほうです。だからその決心を延ばしに延ばすほうがラクではないかと思います。「ぐずぐず」と「だましだまし」がキーワードと最近私は思うようになりました。特に介護保険ができてから十五年の間の家族の変貌(ぼう)がとても大きく、最近は現場で在宅ひとり死のための条件は何ですかと聞くと、少し答えのニュアンスが変わりました。反対する家族などの関係者が少なければ少ないほど、在宅での看取りがやりやすいとプロが言うようになりました。

■ 在宅死の条件
 24時間対応の訪問介護、訪問医療、訪問看護の三点セットがあれば、自宅で死ねます。このうち最も大事なのは介護力です。食事介護、排泄介護、入浴介護、この三大介護が最後まで維持できれば在宅生活は可能です。それに加えていつでも対応してくれる医療と看護、なかでも大切なのは看護で、医者が必要なのは死亡診断書を書くときだけです。
 在宅死の条件として、現在得られるほぼ共通の答えがまず、本人の意志です。その次は介護力のある同居家族がいることと、今のところはおっしゃいます。三つ目に、地域に利用可能な医療介護資源があるということ。それから介護保険のプラスアルファの費用。それさえ出せれば家にいられる。家族介護でこれまでサポートしてきたところを自費負担の介護資源で補えばなんとかなる。そうなると、これまで在宅介護は家族介護とイコールでしたが、在宅介護から家族を引き算できれば、家族のいない人にも在宅介護という選択肢ができるようになりました。

■ 宗教者の役割
 インフラが整ったとしても、死にゆく人のさびしさや孤独感、それはいったい何によって解消することができるでしょうか。ホスピスのパイオニアは、ほとんど宗教関係の団体でした。そして、医者がやらなくてもすむことを宗教家が引き受けてきました。しかし、専門別に分業すればすむのか。「先生、死んだらどこへ行きますか」と患者に聞かれたとき、医者が「私にはわかりません。その話は宗教者に聞いてください」と言っていいのかということはやはり考える必要があると思います。医者がスピリチュアルケアまで引き受けなければならないと思う必要があるのか。医者も宗教的な死生観をもつべきなのか。外国ならば宗教家の出番があるところに、日本にはその宗教家の出番が少ないので、医者が過剰な負担を背負わされているのではないでしょうか。
(文責:親鸞仏教センター)

※上野氏の問題提起と質疑は、『現代と親鸞』第32号(2016年6月1日号)に掲載しています。


上野 千鶴子(うえの ちづこ)氏 社会学者
 1948年生まれ。京都大学文学部哲学科社会学専攻卒業。社会学者、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。社会学博士。
著書に、『構築主義とは何か』(勁草書房)、『サヨナラ、学校化社会』(太郎次郎社)、『家族を容れるハコ 家族を超えるハコ』(平凡社)、『差異の政治学』(岩波書店)、『国境お構いなし』(朝日新聞社)、『上野千鶴子が文学を社会学する』(朝日新聞社)、『老いる準備―介護することされること』(学陽書房)、『生き延びるための思想』(岩波書店)、『おひとりさまの老後』(法研)、『男おひとりさま道』(同)、『ひとりの午後に』(日本放送出版協会)、『女ぎらい―ニッポンのミソジニー』(紀伊國屋書店)、『不惑のフェミニズム』(岩波書店)、『ケアの社会学―当事者主権の福祉社会へ』(太田出版)、『みんな「おひとりさま」』(青灯社)、『〈おんな〉の思想―私たちは、あなたを忘れない』(集英社インターナショナル)、『女たちのサバイバル作戦』(文藝春秋)、『身の下相談にお答えします』(朝日新聞出版)、『ケアのカリスマたち―看取りを支えるプロフェッショナル』(亜紀書房)、『セクシュアリティをことばにする』(青土社)など多数。共著の『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』(朝日新聞出版)を本研究会の参考図書としてご紹介いただいた。
  また、親鸞仏教センター情報誌『anjali』第16号に「最後はひとり」をご執筆いただいている。
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