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研究活動報告
清沢満之研究会
 親鸞仏教センターでは、清沢満之の思想の現代的意味を究明することを目的に、設立当初より継続して「清沢満之研究会」を開催している。現在は「清沢満之を一貫する思想」という課題のもと、1898(明治31)年から翌年にかけて書かれた『臘扇記』をテキストとして、月に一回のペースで考究を進めている。今回は、清沢の思想に大きな転換をもたらしたエピクテタスの言葉との邂逅(かいこう)について、その一端を報告する。
エピクテタスの言葉との邂逅 ①

 親鸞仏教センター研究員 名和 達宣
■ 清沢とエピクテタス
 清沢がエピクテタスの言葉に震撼(しんかん)し、歴史的邂逅を果たしたのは、1898年の秋、新法主(大谷光演)との面会のために東京へ上った時の出来事である(前回報告参照)。到着の日(9月19日)、清沢はすぐに親友・沢柳政太郎の家に身を寄せる。その日から帰省するまでの十日間、新法主との面会以外にも、かつての同志や教え子、恩師など、限られた時間のなかで数多の知人との再会を果たす。そして、この期間中に偶然、沢柳宅の書棚から『エピクテタス語録』を発見する。この書は、やがて『阿含経』、『歎異抄』とあわせて「予の三部経」と言われるほどに読みこまれていく。『臘扇記』中に初めてその言葉が書写されるのは【9月27日】だが、寄宿期間内だけではあきたらず、借用して自坊・西方寺へ帰省(9月29日)してからも、読書と思索に沈潜する日々が続く。それは、あたかも死に直面し、「黙忍堂臘扇」と名のらずにはいられなかった不自由な境遇と、自らの至奥より再燃した志願との間に生じる煩悶を省察していくような歩みであった。
 ところで、清沢がエピクテタスに触れたのはこの時が初めてではない。かつて真宗大学寮で行われた「西洋哲学史講義」(1889年10月〜1894年4月)でも取り上げられており、「宗教と道徳を重んぜり」「其の奴隷なりし時、極めて強き虚平の心を有せり」「人間に取っては、意志が吾人の行の道具で、甚だ大切なり」等と講じられており、かねてより重要な哲学者の一人としては十分に認められていた。しかし、この時の邂逅をとおして「羅馬第一、唯一の聖哲」と讃嘆され、その語録は「西洋第一の書」とまで称されることになる。
 『臘扇記』のなかに集中して英文の抜き書きが見られるのは、大きく二つの時期に分けられる。第一期は【9月27日】【10月3日】【10月6日】【10月22日】【10月23日】の計五日、第二期は【11月10日〜17日】の八日間である。また、第一期途中の【10月12日】には、咀嚼(そしゃく)されたエピクテタスの言葉が初めて日本語で表され、【10月24日】には「自己トハ何ゾヤ」という著名な問いが発起する。そして、この一連の読書と思索が、後年に「エピクテタス氏教訓書を披展するに及びて、頗る得る所あるを覚え」と回想されるに至るのである。
■ 自由の場所を求めて
 清沢が沢柳宅で手にしたジョージ・ロング訳の『エピクテタス語録』(英題はDiscourses of Epictetus瓠砲砲蓮▲┘團テタスの弟子・アリアノスの聞き書きである「語録〔デアトリバイ〕」と、そこから抜粋して手短にまとめた「要録〔エンケイリディオン〕」とが収められている。
 最初の日(9月27日)に書写されたのは「語録」序盤からの二文であった。

 Man, he says, you have a free will by nature from hindrance and compulsion. But, you object, "If you place before me the fear of death, you do compel me. " No, it is not what is placed before you that compels, but your opinion that it is better to do so-and-so than to die. In this matter, then, it is your opinion that compelled you: that is, will compelled will. Epict. Bk I, Ch. XVII, p.54.

 But the tyrant will chain ― what? the leg. He will take away ― what? the neck. What then will he not chain and not take away? the will. This is why the ancients taught the maxim, Know thyself.
ch. XVIII, Ib. p. 58.
(岩波『清沢満之全集』第8巻 350‐351頁)
 清沢は、英文を書き写す際、特に着目した単語に下線を引いている。最初に抜き書きされた二文のなかで、下線が引かれているのは、free will甅fear of death甅opinion甅will compelled will甅Know thyself瓩慮泪所である。このなかのfree will瓩箸いΔ里蓮△ねてより清沢がエピクテタスの思想において「甚だ大切なり」と押さえていた「意志」である。それでは、妨害(hindrance)や強制(compulsion)から解放され、暴君(tyrant)によって繋がれ、あるいは脅かされないような、真に自由(free)なる意志(will)とは何か。ここでは対照的に不自由なものとしてopinion瓩挙げられる。ある事実に対する自らの意見(opinion)こそが、自身を強制する(compel)のだと。
 この文に関連して【10月3日】にはour opinions squeeze us and put us in straits〔われわれの意見が自らを押し潰し、窮地に追いやっている〕瓩箸いΠ貶犬書写される。現にこの時、清沢の身には「死の恐怖〔fear of death〕」が迫っていた。しかし、その恐怖とは「死」という逃れられない一つの事実に対する、個人的な意見(opinion)、あるいは心の現象(Appearance)に過ぎない。しかし、その不確かで個人的な意見や心の現象が、自身を押し潰し(squeeze)、窮地に追いやる(put us in straits)――これこそが、自らの境遇を不自由と感じ、そこに落ち着けず、苦悩する根本の原因ではないか。それゆえ、自由の場所を「意志」に見いだしたエピクテタスの言葉がその身に響いてきたのだろう。
 なおKnow thyself〔汝自身を知れ〕瓩箸いΧ盡澄maxim)は、約一ヶ月の思索を潜った【10月24日】、清沢の至奥より「自己トハ何ゾヤ」という「人世ノ根本的問題」として発起されるに至る。
(続く)

※本報告の詳細は、論文として『現代と親鸞』第28号(2014年6月1日号)に掲載しています。

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