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研究活動報告
近現代『教行信証』研究検証プロジェクト
 親鸞の主著である『顕浄土真実教行証文類』(以下『教行信証』)の思想研究は、現在に至るまで多くの優れた成果が報告されている。また2011年の宗祖親鸞聖人750回御遠忌に際しては、親鸞直筆の『教行信証』である坂東本が翻刻・出版された。これは坂東本の書誌研究における、1 つの到達点であると言えるだろう。しかしながら、これらの成果を総合し検証する作業は、まだ十分に進んでいないのが現状である。
 そこで親鸞仏教センターでは、所長の本多弘之をリーダーに、青柳英司親鸞仏教センター研究員、名和達宣教学研究所研究員、藤原智大谷大学真宗総合研究所東京分室PD 研究員をメンバーとして、「近現代『教行信証』研究」検証プロジェクトを立ち上げた。特に初年度においては、『教行信証』本文の研究検証へ入る準備段階として、読解の視座や造意、構造等の研究を進めている。その一環として2016年12月12日には、教学研究所所長・安冨信哉氏を講師に迎え、研究会を開催した。氏は真宗大谷派の安居において二度『教行信証』を講じており、また曽我量深・金子大榮・鈴木大拙の3 人を中心に、近現代における『教行信証』研究の軌跡を尋ねている。研究会当日は「解釈の転換―私感:『教行信証』の近代」という講題のもと、問題提起をいただいた。ここに、その一端を報告する。 (親鸞仏教センター研究員 青柳 英司)

解釈の転換―私感:『教行信証』の近代

教学研究所長
安冨 信哉 氏
■ はじめに
 近代以降、親鸞の思想として一般に流布したのは『歎異抄』であった。しかし『歎異抄』は、親鸞自身の著作ではない。むしろ親鸞思想を考える場合、中心とすべきは主著の『教行信証』である。では近代において『教行信証』はいかに研究され、受容されてきたのだろうか。この問題に対して安冨氏は4つのテーマを挙げ、それぞれに「近世的了解」と、そこからの「基軸の転換」、その後の「解釈学的展開」を示された。
1. 真理論
 仏教は真理を、「真俗二諦」として語ることがある。ただ近世以降の真宗教団では、この「真俗二諦」を世間や国家への迎合を正当化する言葉として用いてきた。果ては「二諦相依」こそ、真宗の「宗義」であるという主張すら見られたのである。

 この流れを転換したのが、清沢満之だった。清沢は、われわれが帰すべきは何よりも親鸞であり、親鸞が明らかにした「本願他力」であると見定めたのである。この「本願他力」こそ真宗の「宗義」であり、われわれは、そこにおいて自己の信念を確立すべきである、と清沢は考えたのであった。そして、親鸞が「本願他力」を明らかした書物こそ『教行信証』であり、われわれが依るべきは世俗の価値観や教団の権威ではなく、『教行信証』の思想であることを明確に示したのである。
 また、三木清は親鸞を理解するにあたって、『教行信証』を「真理の書」と位置づけた。ここには近代における、解釈学的展開があろう。親鸞が求めたものは「この現実の自己を救う真理」であったと三木は述べ、『教行信証』の中心概念も「真理」に他ならないと見定めている。この慧眼(けいがん)は、評価されるべきだろう。
2.歴史論
 近世の真宗教団において歴史観は、消極的にしか論じられてこなかった。もちろん末法史観について言及されることはあったが、単なる衰退史観として把握されるのみで、そこから積極的な意味を読み取ろうとする姿勢は看取できない。

 この流れを転換したのは、曽我量深と松原祐善であろう。曽我は、仏教史を釈尊からではなく、阿弥陀仏の回向から始まるものとしてとらえ直した。また、松原は末法を生きているという危機意識が親鸞において、本願へ帰入する重要な契機になったことを明かしている。すなわち曽我は、仏教史を本願史観に立って再構築したのであり、松原は末法史観の信仰的意義を明らかにしたと言えるだろう。
 さらに、解釈学的な展開としては、三木清の理解が重要である。三木は、正像末の歴史観を単なる衰退史観とは見なさず、浄土教の真実義が次第に開顕される過程であると見る。つまり、親鸞において仏教史とは、正像末を通して人間悪が浮き彫りになる過程であり、同時に七高僧が次々に現れて浄土教を明らかにした伝統であった。親鸞にとって浄土真宗に帰するということは、歴史的必然だったのである。
3. 構造論
 近世の宗学者たちは『教行信証』を構造的に解明するため、綿密な科文を作ってきた。この営みには学ぶべき点が多い。しかし『教行信証』の理解を固定化するという弊害も大きかった。

 これに対して、従来の宗学にとらわれない新しい構造理解を示したのが、曽我量深と金子大榮である。曽我は『教行信証』の前二巻を「伝承の巻」、後四巻を「己証の巻」に分ける説を提示し、金子は前四巻を「回向の巻」、後二巻を「摂化の巻」とする理解を示している。両者に共通するのは、前五巻を「真実の巻」として重視し、後一巻を「方便の巻」として軽んずる近世的了解をあらためようとした点である。これは『教行信証』のなかに一貫する親鸞の内面性を読み取ろうとする試みでもあろう。
 さらに近年では、「化身土巻」こそが『教行信証』の結論であるという理解も提出されている。ここには曽我・金子の研究からの、解釈学的展開を見ることができるだろう。ただ、これらの構造論も拘泥しすぎると、近世宗学のように『教行信証』の理解を固定化させることにもなる。親鸞の信仰が動態的である以上、『教行信証』の読み方も動態的であるべきであろう。
4.方法論
 近世の大谷派の学寮における講義の中心は、『浄土文類聚鈔』や『教行信証大意』であり、『教行信証』そのものではなかった。『教行信証』は一派の基軸となる聖教として、自由な解釈が制限されていたのである。

 しかし、明治に入って宗学も近代化を求められるなかで、いくつかの転換を見ることとなった。例えば『教行信証』の真蹟(せき)確定を導いた「歴史実証主義」の導入や、自己を通してものを言う「実験主義」の提唱が挙げられる。特に、後者は清沢満之によって強調され、近代真宗学の基本的態度となっていった。
 さらに、清沢門下である金子大榮は、これを「聞思」という言葉で押さえ直している。ここには、解釈学的展開が見て取れる。金子は、真宗学を「聞思」の学と呼び、聞法と思惟という円環のなかに、限りない学の営みがあることを明らかにしたのである。これら一連の展開は、実証できないことをできるかのように語り、教団の権威で反論を封殺した近世宗学との、決別を意味するものだろう。
■ おわりに
 安冨氏は近世宗学の問題の本質を、1つの理解に権威を与え、固定化するという点に見いだされた。これに対して、氏が近代真宗学への転回点とされたのは、どこまでも自己の問題を通して教法を問い続ける姿勢であったように思う。それは常に教法を新しい言葉によってとらえ直し、世界に発信するという営みを含意するものであろう。本プロジェクトにおける『教行信証』の読解も、この点を忘れることなく、丹念に親鸞の信仰と課題を聞き取っていきたい。

(文責:親鸞仏教センター)




※安冨氏の問題提起と質疑は、『近現代『教行信証』研究検証プロジェクト 研究紀要』創刊号(2018年3 月1日発行)に掲載されています。

安冨 信哉(やすとみ しんや)氏
教学研究所長
 1944年新潟県生まれ。早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。大谷大学大学院博士課程真宗学専攻単位取得退学。ウイスコンシン州立大学(マディソン校)仏教学客員研究員、大谷大学真宗学科教授、同特別任用教授などを歴任。現在、真宗大谷派教学研究所長。真宗大谷派講師。大谷大学名誉教授。真宗大谷派光済寺住職。東方仏教協会(EBS)事務局長。
 著書に、『親鸞と危機意識』(文栄堂書店、1991年・新訂増補、2005年)、『清沢満之と個の思想』(法藏館、1999年)、『『教行信証』への序論――総序を読む――』(東本願寺出版、1999年)、『『選択本願念仏集』私記』(東本願寺出版、2003年)、『親鸞・信の構造』(法藏館、2004年)、『真実信の開顕――『教行信証』「信巻」講究――』(東本願寺出版、2007年)、『『唯信鈔』講義』(大法輪閣、2007年)、『聞――私の真宗学――』(文栄堂書店、2009年)、シリーズ親鸞第9 巻『近代日本と親鸞――信の再生――』(筑摩書房、2010年)、『親鸞・信の教相』(法藏館、2012年)など。編著に、『清沢満之――その人と思想』(法藏館、2002年〔共編〕)、Rennyo and the Roots of Modern Japanese Buddhism(オックスフォード大学出版、2006年〔共編〕)、『清沢満之集』(岩波書店、2012年)など。
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