東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市の門脇小学校のそば、西光寺(浄土宗)墓地内の慰霊広場「祈りの杜」に、同寺住職である樋口伸生氏を代表として、西光寺遺族会「蓮の会」が中心となり「いのり大佛」を建立する予定だ。遺族会の中には子供を失った母親も多い。遺族の方々は、今まで仏教にあまり関心がなかったが、悲しい気持ち、やりきれない思い、愛しい感情など、全ての想いを預けられる存在、自分自身を救い取ってもらい、そのような想いを受けとめ、支え、助けてくれる存在を考えたとき、実際に目に見えて、手に触れることが出来る大きな仏像が必要であると感じたという。生き残ったからこその苦悩、その辛さの中で生活してきたからこそ、寄り添う存在として大きな仏様が必要とされたのだ。

 

「いのり大佛」は、台座を含めて高さ約5メートルの石でできた阿弥陀如来坐像となる予定である。大仏の制作は石材加工で有名な愛知県岡崎市の石工らによっておこなわれる。そして造形の監修は仏師の村上清氏がおこなう。2023年には村上氏が実物の阿弥陀如来坐像の6分の1サイズの石膏原型像を完成させ、檀家や支援者に公開された。2026年の完成を目標に寄付を募り、制作が進められている。

 

大仏から手の中に収まるほどの小さな仏像まで、東日本大震災の被災地で造られた仏像は大きさも素材も尊格もさまざまである。だが、それらすべてに、未曾有の災害によって亡くなった方々のための供養・慰霊という「祈り」が込められているという。筆者は被災地で仏像を造る人々の声を直接聞くことができたおかげで、造形物として祈りを後世に残すという仏像にしかできない信仰があると知ることができた。東北地方の復興は進み、少しずつ記憶は薄れている。だが2024年は元旦に発生した能登半島地震によって改めて地震や津波の脅威を目の当たりにした。長い歴史の中で自然の脅威を前に人々は祈り続け、その祈りを形にしようとしてきたことを、仏像は伝えている。現在は国宝に指定された遥か昔に造られた仏像にも、当時のさまざまな社会状況を反映した祈りが込められているのだ。


君島 彩子 KIMISHIMA Ayako

和光大学表現学部講師
著書に、『観音像とは何か 平和モニュメントの近・現代』(青弓社、2021)、大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎編『増補改訂 近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代』(分担執筆、法藏館、2023)など多数。

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